Chocolate dream

□第15章
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自転車を片手に商店街で歩く。

お昼過ぎの空高い太陽が私をジリジリと照らす。

今日は駅前のスイーツショップで美味しいシュークリームの発売日。

リナの家からの帰りについでに寄っていこうという私の魂胆。

開放感もプラスして私の足取りは軽い軽い。

休日の賑わった商店街の人ごみを難なくかき分け私は進む。

すれば太陽のような色のフワフワした見慣れた子とすれ違う。

私は咄嗟に振り返ると、やはりそれは私のよく知る人物だった。

「ジロー君?」

珍しくシャキリと起きている彼は私の呼びかけには気づかず行ってしまう。

私はどうしたんだろうと気になったが、別にここにいても不思議はないと思い直し、また歩みを進める。

するとまた見慣れた人物が二人。



「あれっ、倉永じゃん」

「へ?あ、向日君!忍足君も!!」

「シッ!ジローにバレてまうやろ」



忍足君に口を塞がれムガモゴとなる私にの後ろ、向日君が鋭い目つきでジロー君の去っていった後を見つめる。

どうしたんだろうと私の口を塞いでいる忍足君に目線を配れば、堪忍なといって手を離して
くれる。



「今俺ら、ジローを尾行してんねん」

「尾行?なんでまた」

「アイツの刺激を探るんだぜ。そだそだ!倉永も来いよ!」

「えぇ!?わ、私シュークリームを」

「来るなら早よ!ジローを見失うわ」



忍足君に自転車を奪われガシャンと路駐。

そのまま向日君に手を引っ張られ、ジロー君が歩いて行ったであろう方向に早歩きで向かう。

あああああ、自転車。シュークリーム。また今度・・・。

自分の気持ちに踏ん切りをつけると、私もジローくんを尾行することに専念する。

忍足君たちと一緒にゴソゴソコソコソ。

周りの人達に白い目で見られれば何やってんだろうなあ私、と半ば苦笑いが出てくる。

ジロー君は駅の改札へと入り、止まっていた電車に乗り込んだ。

私たちも急ぎながらもバレないように飛び乗り乗車をする。

駅員さんに冷たい目で見られながらも出発した電車の中、ジロー君とは大分間のとった席で私たち三人は腰を下ろした。

ふうと一息入れる二人に私は口を開く。



「でもどうして尾行を?向日君は刺激を探るって言ってたけど」

「ああ、アイツいつも寝てんじゃねーか」

「そんで宍戸がとうとう痺れを切らしたんや。今度入ってくる1年にレギュラーは寝ててもなれると思われたら困るてな」

「まあ跡部がそれは1日で分かるって拒否ってたけどなー」



跡部という単語が出てきた瞬間、私の心臓はドキリと弾み同時に彼のテニスをする姿が頭に過る。

どうしても意識をしてしまう気持ちを無理矢理かき消すと、私はまた向日君に向かい合った。



「じゃあ跡部君の命令で尾行してるんだ?」

「いいや、忍足がさぁ」

「せやから言うてるやろ。俺たちは去年の二位に甘んじる訳にはアカンて」

「おお、格好良いよ忍足君!」

「お、おう。せやろ?」



私がパチパチと小さく手を叩けば、忍足君はニコリと口元に弧を描く。

そんな私たちの横で向日君が電車の揺れに眠気を誘われ、コクリコクリとうたた寝をしていた。

すかさず忍足君が向日君の耳をキュッと引っ張れば、彼は小さな悲鳴を上げて飛び起きた。



「いった!」

「見てみい岳人、聖。ジローが寝てないで」

「ほんと、ピンピンしてる。どうして?」

「俺にも分からねえ。初めて見るぜ」

「何かアイツを刺激するものがあるはずや」



忍足君がそう呟くのと同時に到着した駅へジロー君は歩みを進める。

私たちもそれに続いて気づかれないように彼の後ろを歩む。

時折、電柱や看板に隠れながら尾行を続行。

ジロー君は私たちに全く気がつかない様子で空を見上げていた。

「なんや、思てたより簡単やん」

忍足君がポツリとそう呟けば、ジロー君がチラリと後ろを確認する。

それに肝を冷やした私たち三人は、隠れようと建物同士の小さな隙間にギュウギュウと入り込んだ。

「蝶々だ〜」

芥川君は自分の周りを飛んでいた蝶を目で追っていただけらしく、私はホッと息をつく。

そんなこんなで彼を追っていけば徐々に見えてくる建物。

あれは・・・?学校みたいだけど。

彼が校門を潜っていくのを見送り、私たちも校門の目の前に立つ。

ここは。



「立海大付属やて?なんでジローがこんなところに」

「え、待って今、立海って言った?」

「ん、ここは立海。テニスで全国二連覇しとるところや」

「それがどうしたんだ倉永?」

「もしかして、仁王君と切原君がいるところ?」

「あれ?どうしてお前がそんな事知ってんだ?」

「お嬢ちゃん、そういや遊園地で会うた言うてたな」



私がダッシュで校門潜れば、二人も慌てて付いてきた。

仁王君と切原君に会えるんじゃないかと思うと、私の足は止まることを知らなかった。

耳を澄ませば何処からか鳴り響いてくる私の大好きな音。

その音の元へと走れば、目的地が見えてきた。

パコン、パコンッ。

軽快なラリーの音が支配するそこは。

テニスコート。

忍足君に連れられて大きな気の影から覗き見れば、フェンス外の芝生で座りながら見学している芥川君の姿も確認出来た。

そして私の後ろでは忍足君と向日君がゼイゼイと息を整えている最中だった。

あ。完璧二人の事、頭に無かったな。



「聖、案外足速いんやなあ」

「ご、ごめん。おいてけぼりにさせちゃって」

「いいぜ、別に!」



向日君がニカッと笑えば、私も思わず口元を緩める。

忍足君の勧めで私たちはコート脇にある、大きな気の影に隠れて見学をした。

ジロー君は堂々と芝生に座って見学してるけど。

チラリと木の後ろから顔を覗かせばすぐに二人を見つけることが出来た。

ペアの子と一緒にダブルスで対戦している仁王君。

シングルスで悪戦苦闘している切原君。

ジッと二人を観察していれば自ずと分かる。

強い。

でもそれは二人に限った事ではない。

部活全体の志気も高く、互いが互いを高め合っている。

それもあの人・・・あそこで下級生の指導をしている真田副部長から発せられている。

真田自ら指導かいな・・・。

そんな忍足君の呟く声が聞こえた。

副部長自ら、か。あれ?だったら・・・。



「あの黒帽子の人が副部長なんでしょ?・・・部長さんは?」

「あぁ、そっか聖は知らんかったなあ」

「立海の部長は幸村精市っていう奴でさ、今そいつは・・・」

「入院中や」



え。その一つの単語が私の口から漏れた。

入院中、その事実だけが私の頭を往復した。



「その上、立海のテニスは"負けは許されない"もんやからなあ、幸村の欠場はかなり痛いはずや」

「幸村君ってそんなに強いんだ・・・」

「伊達に立海の部長じゃねーって。だけど、その分他の部員でカバーしてるからな」

「去年の倍に厄介な相手、やな」



二人の説明を聞きながら再びコートに視線を戻せば、途端に目に止まる人物がいた。

向日君に負けない綺麗な赤髪で、練習中にもかかわらずガムをプウプウと膨らませている子。

飛んできたボールを不思議なラケットの振り方で宙を切った。

すると、ネットの上部に当たったと思ったらそのまま横にコロコロと転がるボール。

どうなるのかと見守れば、見事に相手のコートにポトリと落ちた。



「どう?天才的?」



すごい・・・、そう私が息を飲むのと同時にジロー君の歓声。

彼の方を見てみると両手を挙げて喜んでいるのが見えた。

立海の人たちもそんな彼の様子に目を奪われたかのように見る。

私もジロー君の方を見ていると別の方からの視線を感じた。

そちらを見ると練習中の仁王君とバッチリ目が合った。

あ、と私が口を開けば仁王君は片手をズボンの片手に突っ込んで、もう片方の手をヒラヒラと私に振った。

私も笑顔で手を振り返したがそれは長く続けることができず、忍足君にガシリと手首を掴まれた。



「へっ?」

「ジローが移動するで!」



仁王君と手を振り合っていたのも束の間。

私はそのままズルズルと忍足君に引っ張られてその場を退場した。

だけど仁王君が面白そうに口角を釣り上げたのを私は見逃さなかった。









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