Chocolate dream

□第12章
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ふわふわ。

ふわふわ。

ここはどこだろう。

まるで、綿菓子の上を歩いているような気分。

思わず寝転がれば、疲れやストレスが綺麗に流れ落ちていくような気がした。

胸いっぱいに空気を吸い込めば、私の黒くなってしまった部分を浄化してくれた気がした。

そして、ワクワクやウキウキが流れ込んでくる。

星屑―こんぺいとう―のように甘く流れ込んでくる。

とっても幸せな気持ちになれた。









――――――――。




ハッと意識が戻る。

少し息を荒げて目を開けば、見慣れない天井が視界に入った。

・・・シャンデリア?

優しい光が私の目を眩ませる。

ん?と視線を自分の体に向ければ柔らかな繊維のネグリジェを着ていた。

そして私が寝ているベッドは、保健室のベッドと比べ物にならないくらい豪華なもの。

起きようと身体を起き上がれせようとすれば、自分の左手に少しの重みを感じた。

ごく自然にそこに目を配れば、私は思わず驚きの息を飲んだ。



「跡部君・・・」



サイドにある椅子に座って私の手をしっかり握り、ベッドに突っ伏すような形で彼も眠っていた。

もしかして、看病してくれていたの・・・?

彼と繋がれた手を軽く握り返して部屋を見渡せば、そこは確かに彼のお屋敷だと確信が持てた。

立派なソファが二つ、向き合うように置いてあって。

ソファには彼の鞄やテニスバック、ブレザーが無造作に掛けてあって。

奥には蓄音機やレコードの入った棚があって。

ヴァイオリンがあって、ピアノがあって。

フワリと揺れたカーテンに目を移せば、外はもう暗くなって闇ばかり。

あれから何時間たったのだろう、とボンヤリとした頭を廻り回しても、明確な答えは出てこなかった。

空いている右手で、寝ている彼の髪をサラリと撫でる。

精巧に作られている彼の美しい顔は無防備にも晒されていて、思わずクスリと笑った。

普段はかっこいいのに、寝てる姿は可愛いんだなぁ。

そんな彼のほっぺをツンツンと触れば、うっすらと瞳を開いた。



「あ。おはよー、王様」

「っ倉永!お前、大丈夫かよ!」



熱はっ!?

ガバリと起き上がった彼は、ひやりと冷たい手を私の額へ当てた。

そういえば、頭痛がしない・・・。

最近体調の悪いことも悩みだった私は、あっと驚いた。

手を当てて、それからホッとする彼は、本当に私を心配してくれてたみたいで嬉しくなる。

ありがとうと私が呟けば、彼はムッと私の頬を引っ張った。



「い、いひゃい!」

「ったく、この俺様に心配させるとは大した度胸だぜ」



彼は苦笑しながら、ドカリと椅子に座り直す。

ごめんね、と今度は謝れば、礼をするか謝るかどっちかにしろとピシャリと言われた。

私が起き上がろうとすれば、彼は寝てろと私をベッドへ押し返す。

ポフンと私が倒れ込めば、気持ちの良い香りが私を包んだ。



「私、どうしてここにいるの?」



ふと思った疑問を口に出せば、

跡部君は足を組みながら言葉を漏らした。



「お前、高熱出してブッ倒れたんだよ。医者は疲労とストレスだと言っていた」

「跡部君が運んでくれたんだ?」

「フン」



彼は照れくさそうにそっぽを向いた。

私は感謝の気持ちと嬉しさで胸いっぱいになる。

前まで感じていた彼への罪悪感は全く無くて。

なんだか、今が良ければなんでもいい気がしてきた。

どうでもよくはないんだけどね。

いじめの件も終止符を打てた、忍足君にも。

悩んでいたことが一気に片付いて、妙にスッキリする気持ちは、さっき夢を見たおかげかなと思った。

あとは、親友との問題。

今度、リナの家に直接謝りに行こうと心のどこかで計画していた。

ボケーっと私が考え込んでいると跡部君が不意に口を開く。



「噂が広まったのは、お前らの話をクラスの奴が立ち聞きしていたからだ」

「っえ?」

「そいつが話を広めたことから全てが始まった」



彼は私の目を見ずに淡々といい放つ。

違うよ跡部君。“全て”はそれより前から始まっていた事を私は知ってる。

だけど私は彼の言葉に安心した。だって主犯がリナじゃないと分かったから。

良かった、と呟いて胸を撫で下ろせば、彼はちっとも良くねえよ。と私を睨んだ。

でも、もう大丈夫。私はしっかり意見を言うことが出来た。

だから、これからはキチンと言うようにする。

二度と今回みたいな事が起こらないように。

彼はそれから言葉を紡ぐように、今度は私の目を見て言う。



「今日はもう遅い。うちへ泊まっていけ」

「あ、うん。ありがと」

「それと、家に連絡入れておく」

「あ・・・それはしなくて大丈夫。私の親、今家にいないから」



私の言葉に跡部君は少し驚くと、そうか。と言葉を落とす。

寂しくねえのか。

彼は不意に私に問う。

私はそれに暫し間を置いて考えれば、慣れっこだから。と答えた。

そうすれば彼は寝ている私の髪をサラリと撫で、私の隣に腰を下ろす。

ギッ、と沈むベッドの感触が心地よくて、私は何度も頭の中で反響させた。

彼は優しく私の頭を撫でる。

それに従ってフワフワと心が浮いていくのが分かる。

少しの恥ずかしさも。

モゾと毛布で顔を隠せば、額に冷たくて柔らかい感触がした。

なんで、どうして。

彼は私にこんなにも優しくしてくれるんだろう。

守ってくれるんだろう。

キス、してくれるんだろう。

聞きたいけど、怖い。

なんて返事が帰ってくるのかが分からないから。

私は跡部君の恋人でも彼女でもないのにキスをされるなんて、おかしいんじゃないのかな。

それを一瞬考えて、一瞬で消した。

チラと跡部君を見れば、彼は面白そうに微笑んだところで。



「決めた。お前、俺様の抱き枕な」

「・・・ん?」

「食事と風呂、行ってくる。お前はちゃんと寝てろよ」



そういえば風のように部屋を去っていった。

だ、抱き枕って・・・どういう意味だろ。

私は跡部君の出て行ったドアを見つめ、溜息を付いた。

それは憂鬱の溜息じゃなく。

跡部君の言う通りに寝ようかな。あ、でもその前にメールしなきゃ。

そういえば、私の鞄・・・どこだろう。

起き上がってベッドから降りれば、すぐに見つけることができた。

外側のポケットから携帯を取り出してメールを打つ。

・・・これでよしっ。

携帯の電源をオフにしてポフンと枕に顔を埋めればすぐに眠りへと落ちることができた。

私はまたフワフワな世界へと旅立つ。














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