Chocolate dream

□第10章
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あの最悪な日から気がつけばもう1週間が過ぎ去っていた。

梅雨の季節にまで入り込み、ジトジトと湿気の多い日が続いてる。

それは、私の物が水浸しになっているからなのか、

私の涙で、私だけが感じている感覚なのかが良く分からなくなっていた。

いつの間にやらいじめられる毎日。

辛い。

本当に辛い。

私物のなにかが濡らされているなんてのは当たり前で、

物が無くなったり、グループ学習などでは当然の居ないもの扱い。

それもこれも全ては1つの噂から始まったみたいで。

“跡部様でも飽きたらず忍足君まで唆した”

噂好きの女の子には堪らない内容。

それ以前にこの学園の女の子のほとんどは跡部ファンクラブの子たち。

もうそれは彼女らの餌の何者でもなかった。

学級規模のいじめでなく、ほとんど学園全体。

後輩にも嫌悪の目で見られる始末。



それは、仕方がない。

その噂はあながち間違って無いと私は思っているから。

あの日の翌日には出来上がっていた噂。

いくらなんでも早くないかと耳を疑ったほど。

だけど、別に、どうでもいいの。

皆が私をいじめて、それで気が済むのならとことん標的になってみせる。






学園の門をくぐれば、ほら。

皆が私をジロジロ見る。男の子は興味から。女の子は嫌悪から。

そんな生徒達の間をはや歩きですり抜ける。

こんなの気にしたってしょうがない。

私は屈辱から下唇を噛む。

一応私だって、プライドなんて物は存在していて。

酷く傷つけられた自尊心はもう形を崩し始めてく。

だけど私はそれに気付いていないふりをしていた。



靴箱に着いて中を覗けば大洪水。

ふう、と溜め息をついて予備の上履きを鞄から出して履く。

教室に入れば冷たい視線と無視の視線が絡み付いて、私は吐き気を催した。

席につけばグシャグシャになっている机の中身。

それらには私を失望させるに充分な言葉が書き殴られている。

もう、嫌。

何度そう思ったことか。でも、これは自業自得なのだからと自分に言い聞かせた。





私が何も反応を示さず平然と席に着くと、周りの女の子たちは面白くないように舌打ちした。

私に聞こえるように馬鹿でかい声での陰口。

見せつけるかのような内緒話の仕方。

女の子特有の陰湿ないやがらせ。

馬鹿みたい、と呟いても確かに私の心は闇に侵食されていく。

だけどそのいやがらせは、跡部君たちが教室へ入ってくるのと同時に終わる。

彼らには知られたくないように。

でも、彼らは絶対感じとっていると確信を持っていた。

それは、私あの日の夕暮れに変なお願いを彼らにしたからだと思う。










―――――。





「ごめん、しばらくの間、一人にさせて」





私は彼らが部活を終えるのと同時に二人を呼び出してそう言った。

リナに散々言われて、傷ついたばかりのドロドロな私の心の叫び。

そして、温かいものに、温かい日の光に頼らないようにと、私が下した苦肉の策だった。

そんなことをいきなり私が言うものだから、二人は当然、眉を寄せ顔を見合わせる。




跡部君は考え込むように手を顔に当て、私を熟視した。

忍足君はただただ悲しそうに笑って、ごめんな、と呟く。



違うの、忍足君。謝らなきゃいけないのは私の方で。

そう思えば涙がポロポロと溢れ出して、目の前の二人はギョッと目を見開く。

じゃあね

そう言って走り出そうとすれば、誰かが私の腕を掴んで、引き止めた。




それは、跡部君。

いつも王様のみたいに偉そうな態度をしているのに、今は違った。

懸念の表情を浮かべ、だけど口元は苦しいように噛み締めていて。

ただひたむきに“行くな”と口から漏れそうな、そんな面様。

私は、最後にこの彼の表情が見れて良かったと思って、

大丈夫だよ、という思いを込めて無理矢理に微笑み、

彼の手を振りほどいた。





―――――。










彼らはそんな私の一方通行の願いを静かに聞いてくれていた。

私は心の中で何度も彼らに謝る。

でも謝っても謝っても私の気持ちはただただ漏れるだけ。

気がつけば制服のスカートをしわくちゃに握り込んでいた。



担任の先生が教室へ入ってくれば今日も彼女は休みらしい。

あの日からずっと来ていない。

理由は体調不良なんだそうだ。

彼女が休んでることさえも胸がドッと重くなる。

全ては、自分のせい。

何度自分を責めただろうか。

何度自分を嫌いになっただろうか。





リナに謝りたい。









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