Chocolate dream

□第8章
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ついに念願の土曜日がやってきた。

この日をどれだけ待ちわびていたか。





「今日こそ・・・決めたる」






丸いメガネをキラリと光らせ、俺はそう呟いた。

俺は倉永の事が好きだ。

好き・・・という感情は初めてでは無い。

今までにも何人か、人並みには恋をしてきたと自分では思っている。

しかし今までの恋とはまるで違う。

この胸を締め付ける何かがある。

これまで好きになったとしても特に理由がなく、

好きになった女子タイプも読書好きの静かな子、というのがほとんどだった。

しかし、聖はどうだ。

今までのタイプとは一変して、天然、明るい、無邪気という三拍子がそろっている。

最初はまさかこんな子に・・・と思っていたが、

やはり自分が惹かれている事は確かだった。

やっとこぎつけたデート。

俺のテクニック魅せたるわ・・・。

そうブツブツと呟きながら、駅へと向かった。





聖を待つこと5分。

やはり好きな子には反応が早いらしい。

向こうで聖信号待ちしているのが見える。

うあっ・・・!

可愛ぇぇぇええええ!!

スカートやん!膝丈より上やん!ええ足やん!!

白のワンピースかぁ・・・。

めっさ似合うてるわあ。

俺の得意分野のポーカーフェイスとは裏腹に心の内では

そんな変態紛いのことを繰り返し思っていた。

信号が青になり、駆け足気味で彼女がこちらに向かってくる。





「ご、ごめんなさいっ!待たせちゃった?」





風がフワリと聖の香りを運ぶ。

しかも身長差のおかげか、無意識の可愛い上目使い。

神様、ありがとう!

しかし、俺を殺しにかかってるんちゃうか?この子・・・。

ああ、でも聖なら殺されたい。






「待っとらんよ、ちょうど来たところや」





するとその子はホッとしたのかニコリと屈託の無い笑顔を俺に向ける。

おおうふっ。

やばいわ・・・。胸がキュンキュンやわ・・・。





「今日はどこへ行くの?」





そう言って微かに首を傾げる。

サラリと流れる綺麗な髪に、蒸気している頬。

それを見て俺はつい笑みがこぼれた。





「映画行こう思うてて。そろそろ時間やし、行こか」





俺はそう言って歩き出す。

すると彼女は俺より小振りな足取りでチョコチョコと俺の後を付いて来る。

彼女が歩くたびに白のワンピースがフワリと波打ち、白い足をのぞかせる。

それは俺の目を釘付けにさせ、惑わせた。

若干かかとの高いサンダルをはいているから覚束ない足取りだ。





「ねぇねぇ、どんな映画を見るの?」





そう言いながら俺の服の裾をちょんちょんと引っ張ってくる。

俺はそんな彼女からのタッチを楽しみながら答える。






「見てからのお楽しみや。絶対聖も気に入るで」






俺がそういうと聖は頭にクエスチョンマークを浮かべる。

ほんま・・・可愛え。

ベタボレとはまさにこの事やな。






「そう言えば、忍足君はどうして私の事を名前で呼ぶの?」

「呼びたなったからや・・・。嫌か?」





俺がイタズラにそう言うと

聖は必死に頭を横に振る。

その姿がまるで仔犬のようで愛くるしさを覚える。





「ううん!ちょっと慣れないだけ!嬉しいよ」





そう言うとニパッと笑う。

そんな彼女を俺は撫でる。

よしよし。

そんなことしてる内に映画館へと着いてしまう。

俺はチケットを買うために彼女をベンチに待たせた。

俺が買っている間、彼女はベンチに座って足をブラブラさせていた。

こうやってみると聖もまだまだ子供やなあ。

そして今は機械でピピっと操作をすれば簡単にチケットが手に入るご時世。

俺は手馴れたように、まるで流れるかの如く機会を操る。

フ、氷帝の天才も罪やな。

出てきたチケットを受け取り、彼女のもとへ戻ろうとすれば、

聖は一人の男に絡まれていた。

なっ、ナンパか!?

急いで戻ると、その一人の男は俺のよう知っとる人物やった。





「・・・どうして、お前がここにおるんや!」

「フン、俺様の情報網をなめんじゃねえよ」

「昨日跡部君から電話が来てね?」

「なんで聖の電話番号知っとんねん!聖、

俺にも教えてください!」

「忍足、追加分のチケットを買って来い」





そう言って有無を言わせず跡部は俺にチケットを買いに行かせる。

あーぁ、俺の夢のような一日は跡部のせいでパーや、畜生。

・・・いや、障害がある恋ちゅーこそ燃え上がるんや、二人の熱い愛の炎で!!



跡部の分のチケットを買って戻ると、

二人は何も喋ってはいなかったが、親密な二人の空間を作っていた。

くぅぅっ!なんやこの二人・・・。

いつの間にこんな仲良くなっとったん!?ジェラシーや!!

そんな事を思いつつ、俺は彼女と跡部にチケットを渡した。





「わっ!これ、私が見たかった奴だ!!」

「ラブコメ、という奴か」





跡部はポツリといい、聖は嬉しそうにキャッキャとはしゃぐ。

そんな彼女の反応に俺は思わずホッとして胸をなでおろした。





「ありがとう!忍足君!!」

「遊園地の時話したやろ?覚えておいたんや」

「ま、ストーリーに期待だな」





それから俺たちは会話を弾ませながら会場に入る。

そういえば、いつぶりだろうか。

跡部とこうしてプライベートで会い(今回は半ば無理矢理だが)、

外を出歩くというのは。

思い出してみれば数少ないのかもしれない。

しかし、どうして急に俺たちに突っ込んできたのだろうと考えれば、

思い当たる節は一つしかなかった。

もしかして、跡部・・・聖の事が?

記憶を辿れば、最初から少なからずとも彼女に興味の色はあったようだし、

新学期早々、俺に振ってきた話が彼女のことだったような気がする。

ああ、なんでそんな簡単なことに早く気づかなかったんやろ。

そう自分を責めるのと同時に指定の席へと着いた。

俺、聖、跡部の順で座る。

ああっ!もう・・・。

なんで聖の隣に座んねん!

俺がせっかく掴んだチャンスやと言うんに、

主導権を跡部に取られてたまるかい!

俺は彼女を見つめる。ただ、なんとなくを装って。

ほおら、こっち見いや。

ずっと横を見ていると自然と、誰がなんと言おうと自然と目が合う。





「映画始まるのまだかな?」

「フフ、もうじきやろ」





俺がそう言うのと同時に開始のブザーが鳴る。

それだけで倉永は"すごい!"と感心してくれる。

純粋なんやなぁ。

跡部は俺に鼻で笑ったが、気にしないふり。

内心めっさムカついたが。



映画を見てる最中ずっと聖の事を見つめる。

彼女はシーンに合わせて笑ったり、怒ったり、泣いたり。

疲れやしないかと聞きたいほど表情がコロコロ変わる。

見ていて飽きない。

フフ、と微笑むように聖を見ていれば、

跡部もまた同じだった。

面白いように口元に弧を描き、微笑む。


・・・。

思わず心に黒い靄がかかる。

あかん・・・。

跡部、本気や。



今までに奴のこんな顔、見いひんかった。

愛くるしい、愛おしい。

彼女を見る、奴の気持ち。



だから、か。

彼女のために女子に叱咤したのは。

彼女にテニスを誘ったのは。

本当に、なんで気づかへんかったんやろ。



あの跡部が、こんなにも聖を思っていることを。



目を細め、スクリーンに目を移す。

大好きなジャンルの映画なのに、全く面白くない。

それ以前に頭に、入ってこない。

よぎるのは彼女と奴の事だけ。

そんな事を考えていたら、すぐに映画が終わってしまった。

映画って終わるのこんなに早かったか?

しかし、時計を見ると開始より1時間はとうに経っていた。



「あぁぅう・・・感動したよ」



そういう彼女は頬を涙でグッショリと濡らし、照れ隠しか笑っていた。

俺はそんな彼女の涙をハンカチで拭ってあげる。

こんなに可愛い彼女を、跡部には譲れない。

譲りたくもない。

先に何か手を打たなければ。





「ありがと。・・・おなか空いちゃった、っえへ」

「じゃあ、レストランでも行くか。なあ忍足」

「レストランて・・・、喫茶店でええやろ」




聖も賛成、と手を挙げる。

跡部は俺を一瞥し、そうか、と呟いた。

庶民は喫茶店に限るわ!

そう心の中で叫んだ瞬間、聖はこう言った。

"喫茶店なんて、久しぶり"

と。

待て、聖。

なんで喫茶店ごときで嬉しそうにはしゃいでんねん。

可愛えから別にええねんけど・・・、

ま、まさか彼女は・・・お嬢様?





「さっきの映画、感動した! 恋愛はやっぱりいいね」





そう、俺たちが今回見た映画はラブロマンス物、俺おすすめの奴。

前に遊園地で彼女と話してた奴が近々ロードショーだったから

彼女を誘ってみたのに・・・、

余計な奴がついてきおった。






「ほんまにそうやなぁ。小説も読んだやけど、更に良かった気がするわ」

「えっ?小説あったんだ!」





絶対買う! と倉永は小さな手を握りしめて、気合いをいれていた。

跡部は鼻で笑うと、見守るような笑みで彼女の頭を優しく撫でる。

普段、跡部が絶対にしない行為。

そして俺は、俺にも知らない間に、彼女の手を引いて、



彼女を奴から遠ざけた。



跡部は目を細めて俺をあざ笑うかのように見たが、俺は無視した。

"喫茶店へ行こか"

と無理に彼女へ笑えば、彼女も無理して微笑んだ。



ああ、ごめんな。

お前にそんな顔、させた無かった。

俺の下らない感情のせいで。





「ん、眩しっ」





外に出たところで煌々とお昼の日差しが俺らを襲った。

喫茶店は近いところに行こうといことになり、歩き出す。

俺はポッケに手ぇ突っ込んでウィンドウの中の服や物を横目で見ながら。

聖は小さなバックを両手で持ちながらおずおずと。

跡部は別に何をするのでもなく、

我が道だと言わんばかりに堂々と歩いた。

時折、奴と彼女が目を合わせ、

意思疎通していたのは気のせいだろうか。

俺はますます機嫌が悪くなる。

なんで、なんで俺がこんな思いしないとあかんねん。



好きな子が、知ってる奴と話をしているのを見るだけで、

心が途端にモヤモヤと陰りだし、大きな不安がのし掛かる。

俺は、そんな気分初めてだと気がついた。

これが嫉妬。

小説で読む物よりずっと苦しくて、痛くて、切ない。



突然耳に”カラン”とドアの開く音が聞こえた。

聖と跡部が先に入り、俺は後に続いた。

通りのよく見える席へと腰を下ろせば彼女はすぐにメニューを開いた。

跡部もチラリと上から覗けば、もう決めた様子で腕を組む。

もう料金や素材のことに驚くことも無くなったみたいだった。

俺もメニューを見、店員さんを呼んで注文すれば、話の輪が広がった。

学校のこと、友達のこと、この前の遊園地のこと。

さっきの嫌な気分も忘れ、運ばれてきた食事を口にする。

すれば聖の口からスラリと立海という名が飛び出し、

俺と跡部は顔を見合わせ、過敏に反応した。




「切原君と仁王君とお友達になれたんだよー」

「よりによってあの二人かいな。変なことされてないか?」

「無いよー、楽しい人たちだったし!」

「まあ、大丈夫だろ」




跡部がマカロニを突っつきながら呟く。

そして"ここから出たら帰る"と言葉を追加する。

樺地と何か用事があるらしい。

聖はすごく残念がっていたが、俺は内心ガッツポーズだった。

やっとこれで二人きりや!

さてどこへ行こうかと考えれば聖も途中で帰ると言い出す。




「堪忍してえなぁ・・・」

「ほんと、ごめん!もうしばらくは居れるんだけど」




彼女に手を合わせられ、しかも上目で見られたらそりゃ許すしかない。

一同食べ終えて支払い、外に出て新鮮な空気を吸う。

跡部が携帯で車を呼ぶと、わずか10秒で駆けつける。

どないなっとんねん。














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