Chocolate dream

□第4章
2ページ/3ページ
















お昼休みのチャイムが鳴り響く。

お腹もいい具合に空き、迫り来る空腹感を抑え教室を足早に去る。

リナにもこの事は伝えて無い。

言うときっと付いてくるだろうと思い、言わないでおいた。

しかし、この私の行動が、未来を先読みしているように思える。

どうしてリナに着いてきて欲しくない、と思ったのか。

それは、なんとなくメールの差出人の用件が、

人を寄せ付けてはならない内容ように思えてしまったから。

まあリナを呼んだところで彼女は放送委員で来れないけどね。




パタパタと少し急ぎ足で体育倉庫に向かう。

着いたところで、体育が終わったのか、

体育館から生徒がチラホラと出ていった。

私がヒョイと中を覗けば、もうもの抜けの殻で誰もいない。

えっと、体育倉庫はっと。

キョロキョロと周りを見渡しつつ、倉庫へと進む。

ガララと音をたてながら倉庫の扉横へスライドした。

そこは少し煙たく、埃臭い匂いが私を迎え入れた。

あれ、誰もいないなぁ。

早く来すぎちゃったかな。

目の前には、バスケットボール、バレーボールが入った籠や、

バドミントンのラケットやシャトル、マット、跳び箱等が、

窮屈そうに狭い空間へと収まっているだけだった。

そんな場所にただ私がポツンと一人でいるだけ。

・・・来ないなあ。

跡部君たちとの約束もあるし、何もないなら帰ろっと。

私がその場でターンし帰ろうと倉庫の入出口へ足を踏み出そうとすれば、

不意に甲高い声が私の行動を遮った。




私の目の前に数人の女の子が出入口へ出現する。

あ、出られなくなっちゃった。

呑気にそんなことを考える。

それは少しでも自分を落ち着かせるための努力。そして見栄。

逆光で彼女たちの顔はよく見えなかったが、態度で気持ちが十分伝わってきた。

なにか、ヤバイ。危ない。

と。

私は心臓の鼓動が少しづつ速く、うるさくなるのを感じ始めた。

ジリジリとにじみ寄ってくる彼女らに、私も自然と後退していた。

トン、と背中に壁が当たる感触がし、より焦る。





「アンタが倉永聖?」





真ん中の子が口を開く。

仁王立ちで、腕を組んで、いかにも性格がキツそうな印象を受ける子。

私がコクンと頷けば、彼女らはクスクスと笑い出す。

ドッと冷や汗が出る。

全身の毛穴から変な汁でも出てるみたいに。





「メール読んでくれてありがと」

「で、私たちがどうしてここにアンタを呼び出したか分かる??」





真ん中の子が口を開けば、周りの子も便乗して喋り出す。

相手が口を開くたびに、心臓が私の口より早く返事をすることが、

とても情けなく思えた。

思わず深呼吸をして、吐き出す空気に言葉を乗せる。





「わ、っ・・・分からない」




上手く発声できず震えた声で返答してしまう。

そして、私のこの返答で完璧に立場が決まってしまった。

相手が上。

私が下。

それを相手も感じ取り、目の色が変わる。

私を、睨みつける。





「あんま調子乗んなよ」

「マジでキモイ」

「うちらの跡部様に近寄らないで!!」





ッあ・・・!!

勢いで突き飛ばされ、背中を思い切り打ち付ける。

向かってくる手のひらを、私はしっかりと見ていたが反応できなかった。

肺が痛い、胸が痛い。

ズルズルと座り込む。

何となく、予想できてた未来。

回避しようとしなかった過去の私。

こんなとこに呼び出されて、良くないことが起こりそうなのは簡単に予想できるのに。





「ハッ!いい気味」




それが起こっている現状。

彼女たちの笑い声を聞きながら、苦しみ悲鳴を上げる胸をキュッと抑えた。

なんで、こんな事して笑えるんだろう。

なんで、笑ってるんだろう。


それは私に直接手を下せているから?





“最近、跡部に最も近い女の子”

その言葉が私の中で思い出される。

もしかして、彼女たちは彼と噂される子に度々こういうことをしてきたのだろうか。

それも平然と。

ごく自然に、当たり前のように。

このままじゃいけない。

私も、やられっぱなしじゃいけない。

勇気を出し、私も彼女たちを睨みつけた。

彼女たちは不気味に笑う。

立とうとすれば、足が震えていて立てなかった。

震える足を抑え、私は言葉を発する。





「やめて、彼とはただの友達なっ・・・」

「だからよ!!」





私の言葉を遮り、真ん中の子は威圧的な声を発する。

しばらく視線が交差し、私の心臓がこれでもかというほど鼓動を刻む。

だから・・・って、どういうこと・・・?





「初めて跡部様が女子の中で“友達”を作ったのよ?」

「跡部様自身が初めて認める“友達”、私たちはただの“雌猫”」

「どうやってそこまでこぎつけたのよ!!!」





彼女たちの声が頭の中に反響する。

それは、どういうこと?

私は女子の中で初めての“友達”?

こぎつけた・・・?

違う、私たちは自然に友達になったの。

ただ自然に。

・・・自然に?








本当に自然だった?





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ