Chocolate dream

□第3章
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ジリジリと暑い日差しが私たちの全身に照りつける。

遊園地に来ているほかの人たちも厚そうに服をパタパタして

身体の熱を取っていたり、

タオルで額の汗なんかを拭いたりしている。

子供たちもフードショップの前で美味しそうに

ソフトクリームやジュースを飲んで暑さをしのいでいた。


お昼を過ぎ、人は減るどころか増える一方。

朝よりずっと多くの人が楽しそうに賑わっている。

その分人口密度も高くなり、

ギュウギュウと人の波に流されそうになる。

それは一緒に行動している芥川君の後ろ姿も

時々見えなくなってしまうほど。

そんな状況で私は一生懸命に彼の後ろについていく。

人の波をかき分け、はぐれないように。



だけど大勢の人は、私のそんな気持ちを知らず

非常にも簡単に私の視界から彼の姿を消し去ってしまう。

早く追いつかなきゃ。

人ごみから見え隠れする彼の背中に精一杯に手を

・・・指先まで伸ばす。

身体も少し前のめりにさせ、さらに距離を縮めると、

彼の背にソッと先端が触れそうになる。

も、もう少し・・・。

だけど僅かな距離というところで横からの波に押し寄せられ、

私の身体はグラリと不安定に傾いた。

つかめそうだった背中に綺麗な弧を描き、

私の手が離れる。

っ・・・!あ。

反射的に目を閉じ、受身の体制になる。

・・・あれ?

地面に倒れ込んでしまうかと思ったが、

一向にその気配は見えなかった。

恐る恐る目を開いてみると、

芥川君が私の身体をしっかりと支えてくれていた。

彼の腕の中にすっぽりと収まる私。

予想をしていなかった展開に思考が追いつかない。




「あ、芥川君!先に行ったんじゃ・・・」

「いや〜、振り返ったら君がこけちゃいそうになってたから危ないと思って〜」




のんびりした声で、のんびりと眠たそうで可愛い笑顔。

心が温かくなるような。

私もその笑顔に答えるため微笑む。

いつも寝ている彼しか知らなかったから、

まさか助けてくれるなんて思ってもみなかった。

まともにしゃべっている姿なんて見たこともないし、

彼の性格も全く知らない、分からない。

さっきのベンチでやっと話せたところ。

彼の新たな一面の発見に少し嬉しくなる。




「ありがとう。芥川君」




彼に遠慮無しに体重を預けていた自身の身体を起こし、彼に言った。




「うん。あと、芥川じゃなくて、ジローでいいよ〜、みんなもそう呼んでるC〜」




・・・そして友好的。

ああ言われて嬉しくない人間なんてそういないだろう。

だって今の私の顔を見たら、きっとみんな笑っちゃう。

嬉しくて嬉しくて・・・。

さっきから口角を上げっぱなしで・・・。

心がポカポカと温かくなってくる。

たかが名前を呼ぶことぐらいで・・・。

なんて思っている人は経験してみればわかるはず。

人と仲良くなれる事、“名前”を呼ぶというワンステップでも

私はとても幸せに感じる。




「聖ちゃん、いい笑顔だC〜!」

「えへへ、ジロー君も!」




周りの喧騒が私たちには聞こえない。

二人の世界が出来上がる。

その世界を例えるならそう・・・。

花が舞っている。きらびやかにではなく、のんびり、ゆっくりと。

穏やかは雰囲気は

平和主義の鳳君が飛んできそうなほど。




「そろそろ行こうか〜」




のんびり聞いてくるジローくんに強く頷き、

同時に差し出された彼の手を握り、

外の世界へと足を踏み出す。

ザワザワとした喧騒が戻ってくる。

それはもう私にとって不安の一つでも何にでもなかった。

彼と繋がれている右手が、

もうはぐれないことを強く示していた。




日だまりのように温かい彼の手に引かれて、波の中を歩く。

もう不安は何もない。

彼の笑顔にも励まされ人ごみの中を歩いていると

聞きなれた声が私たちの耳に届いた。




「あれ?お嬢さんやないか」




その低く響く声に私の耳は過敏に反応する。

反射的に声が聞こえてきた方向に振り返ると、

ベンチに座ってこちらに手を振っている忍足君を発見した。







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