僕はオトコに生まれたかった。
□拍手LOG。
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わずか10センチの距離。
「今日は特に寒いね」
白い息が空に舞う。それを目で追いかけながら、僕は隣を歩くライリに言った。
「そうだな、早く帰って温まりてぇよ」
左手へ必死に息を吹きかけて、温めようとするライリ。それに倣うように僕も自分の右手へと息を吹きかける。
「君さ、暖炉独り占めにする気だろ」
「んなわけねえだろ。お前の場所も作ってやるよ」
「なんでそんなに上からなんだよ」
はーっ、はーっ、と白く舞う息を交差させて笑う僕ら。
それに反比例して、僕の心はとても切なかった。
「いーんだよ、今日は特別にクメルがスープ作ってくれるんだってよ。それご馳走してやるんだから、上からもの言うくらい許せよ」
「それは仕方ないね」
「だろ?」
「しかし、寒いね」
「振り出しに戻る……」
寒い、寒いと言いつつも、僕らは歩く速度を変えない。
長い家路を歩く時間も、ライリと一緒というだけでとても短く感じられた。
「でも本当に寒いよね……」
「ああ、本当にな」
手を伸ばせば君に触れられる、わずか10センチはこんなにも遠いけれど。
終