僕はオトコに生まれたかった。

□拍手LOG。
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ただただ君が好きだから。




 いつか消えてしまいそうで怖い、と友人が自分の恋人について語っていた。なるほど彼女は月明かりに消えてしまってもなんら不思議はないほど美しかった。どちらかと言えば、この友人が彼女の恋人だということのほうが不思議だ。もちろんそんなこと口にはできないから「そうだな」とだけ返しておく。

「お前は? 恋人いないのか?」

 優越感だろう。答えのわかりきった問いかけを口にした彼の表情はいささか下品なものだった。だからせめて上品さを心がけて、笑みを返す。

「さあね」

 そう言って肩を竦めれば、友人はそれ以上追及することはなかった。長男という立場上簡単に恋人は作れまい、と勝手に解釈してくれたらしい。

「消えそうと言えば、あいつ」

「誰?」

 友人の視線の先を追う。そこには、この宴の主催者とされている男の姿があった。

「あいつも、目を離したら消えそうだよな」

 まあ、彼女の美しさには負けるけど。という最後の一言は聞き流して、招待客に笑顔を向けている男を見つめる。

「……消えないだろ」

「そういうことじゃなくてさ」

「わかってる。でももしあいつが女で恋人だったとしても……たぶん……消えそうだなんて思わないな」

 何故だと言外に片眉をあげる友人と男に背を向けてバルコニーに出る。つられるようにしてついてきた友人を振り返らないまま、月を見上げて零した。

「愛してるなら、消さないだろ」

 そういうことじゃなくて、と地団駄でも踏みそうな友人に、そういうことなんだよ、と返せば、今度はどうしてなんでと繰り返す。

「一生教えない」

 薄く笑って、月光に背を向けた。




(So he disappeared.)




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