僕はオトコに生まれたかった。

□拍手LOG。
8ページ/27ページ



わずか10センチの距離。




「今日は特に寒いね」

 白い息が空に舞う。それを目で追いかけながら、僕は隣を歩くライリに言った。

「そうだな、早く帰って温まりてぇよ」

 左手へ必死に息を吹きかけて、温めようとするライリ。それに倣うように僕も自分の右手へと息を吹きかける。

「君さ、暖炉独り占めにする気だろ」

「んなわけねえだろ。お前の場所も作ってやるよ」

「なんでそんなに上からなんだよ」

 はーっ、はーっ、と白く舞う息を交差させて笑う僕ら。

 それに反比例して、僕の心はとても切なかった。

「いーんだよ、今日は特別にクメルがスープ作ってくれるんだってよ。それご馳走してやるんだから、上からもの言うくらい許せよ」

「それは仕方ないね」

「だろ?」

「しかし、寒いね」

「振り出しに戻る……」

 寒い、寒いと言いつつも、僕らは歩く速度を変えない。

 長い家路を歩く時間も、ライリと一緒というだけでとても短く感じられた。

「でも本当に寒いよね……」

「ああ、本当にな」

 手を伸ばせば君に触れられる、わずか10センチはこんなにも遠いけれど。


 終






次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ