僕はオトコに生まれたかった。
□僕はカンショクに微睡んだ。
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僕は入室早々、キャスター付きの椅子の上に乱雑にびしょ濡れの制服を落として、もう一脚の椅子に腰を落ち着けた。
大和斉はそんな僕へ、不可解なものを見るようにじろじろと不躾な視線を寄越してくる。僕が和多留ゆいの体操服を着用しているのが、どうにも気になって仕方がないようだ。
「いい加減、じろじろ見るのやめてくれる?」
まるでこの部屋の主人のように椅子に浅く腰をかけて足を組み、大和斉を睨む。
僕だって好きで着ているわけじゃない。
いろいろと事情があるのだ。
とてもとてもとてつもなくくだらない、そうしてとてもとてもとてつもなく不毛な薄っぺらい事情。
「ああ、悪い」
大和斉は心の伴わない言葉だけをこちらへ寄越して、コーヒーメーカから紙コップに温かいコーヒーを注ぐ。
この部屋にはコーヒー以外の飲み物はないのだろうか。
しかしこんな居住まいをしていても、所詮は客人――というにはまた違うけれど――だ。文句は言えまい。
紙コップを手渡され、ミルクポーション一個とスティックシュガー二本が、大和斉の引き出しから僕の手中へと移動する。そこからミルクポーションだけを紙コップに入れた。
「砂糖は?」
怪訝な顔の大和斉。
「最近は、こうして飲んでるんだよ」
「なんだ? 急に大人ぶりたくなったのか?」
「大人ぶるもなにも、砂糖は入れていたけど僕はもともとブラック派だっただろ。十分大人ぶってたじゃないか」
苦いとわかりきったコーヒーを一口含み、案の定の味覚に目を眇めた。
「まあ、願掛けみたいなものだから、気にしないでよ」
「へえ、お前にしちゃ珍しいな」
大和斉はそれ以上、<願掛け>について触れることなく、本題と言っていい話に移った。