僕はオトコに生まれたかった。番外編
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「お前が一番に出迎えてくれると思ってたんだがな」
突然のくだけた言葉に驚いて顔を見上げれば、彼の視線は廊下の先。いつの間にか、壁に寄りかかるように立っていた娘に向けられていた。
「君をいちいち出迎えてたら時間のロスだと嫌というほど学んだからね」
「この家でお前が出迎えてくれたことなんか数えるほどしかねえだろ」
「予告せずに来るくせに、よく言うよ」
「予告したら来るなっていうだろ」
「当然だろ。何度も嫌というほど言ってきたけど、君は教師で僕は生徒なんだから」
「何度も嫌というほど聞いてきたけど、教師が生徒の家に行っちゃいけねぇっていう法律なんてねえだろ。家庭訪問どうなるんだ」
「公私混同がいけないことだといい加減気づいてくれない?」
口調はいつもと変わらないのに、表情は存外柔らかで。
娘は瞠目している私を見ても特に反応せず、背を向け自室へ引き返していく。
「お邪魔します」
と、彼は一言私に断ってから、娘のあとを追った。
並んで歩く二人の背を半ば呆然としながら見つめていると、不意に彼が腰を屈め、娘の髪に唇を寄せた。宥めるような、労わるようなそれが、あまりに自然で私の心に――不安感が募った。
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