例えばセカイが変わっても、

□例えばニガテと分かっても、
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 俺は女が苦手らしい。

 普通に話すこともできるし、遊びに行くこともできるが、気のある素振りを見せられると途端に距離を置きたくなる。

 それをずっと、大学時代の後遺症だろうと思っていたのだが、しかしよくよく思い返すと、中学時代に告白されつき合った彼女たちには同じ言葉でフラれていた。

 ――いつまで経っても手も繋いでくれないじゃない。

 そう、俺は誰に対しても<恋人として>触れたことはなかったのだ。苦手だということに気がつかなかっただけで、無意識に距離を置いていたのかもしれない。 

 泣いて去っていく背中を追いかけることもしなかったのだから、そもそも彼女たちのことをそれほど「好き」なわけでもなかったのだろう。告白されたから付き合ってみただけ、なんて我ながら最低だとは思うが、思春期だったということで許してもらいたい。

 手を繋がない。

 触れもしない。

 そう責められるたびに、ぼんやりと心のどこかで思っていたことがある。

 ――触れることはそんなに重要なことだろうか?

 友人たちがいる前でぽろりと零せば、「当然だろ!」と肩を殴られた。

 ――今までお前自身が気になった女性はいないのか?

 いかにもインテリ感を出していた友人の一人の言葉に、そう言えばと俺は気がついた。




 誰かを好きだと思ったことは、一度もない。




 驚く友人たちに、なんでだ、と零すと、別の友人が右手を唇の左側に立てて言った。

 ――もしかしてお前、コッチなんじゃねえ?

 その引きつった頬が、忘れられなかった。

 そんなことはない、と即答もできず。かといって、男性に好んで近寄りたいかと問われても、首を捻るしかない。

 それを毎日のように考えているうちに、顔も見たことのない「彼女の友人」だと名乗る人間にも責められるようになり、面倒になって、どうせ好きにならないのだからと、告白されてもすべて断ることにした。

 するといよいよ男色家だと噂がたって、幾数人かの男にも告白されたが、嬉しいとは思わなかった。しかし、気持ち悪いとも思わなくて、そんな自分に戸惑う。

 一時期真剣に悩んだものの、「わかったところで、好きな奴が現れるわけでもねえな」という結論に達し、それ以降考えることをやめた。

 だから、あのころ「苦手」だとわからなかったのは、そこまで考えようとは思わなかったからだろう――か。

 しかし今ははっきりと言える。

 俺は、好意を持って近づいてくる女が苦手だ。

 まったく惹かれていないのに、気のある素振りとやらを少しでも見せようもんなら、なにをするか、なにをされるかわかったもんじゃない。

 それがだんだん洒落にならなくなって、大学を卒業直前、逃げるように地元を出た。

 それから教職に就いて四年。もう落ち着いただろうと、一度も帰らずにいた地元に戻るため、働いていた学校に異動願いを届け出た。

 地元に近いとは言えず一人暮らしは続行することになったが、実家へ帰ることが苦にはならない程度の距離にある高校へと異動が決まった。中途半端な時期だったが、ちょうど育児休暇に入る教師がいて空きができたらしい。驚いたことに、一年生の担任を受け持ってくれと頼まれた。担任を持つことが初めてではなく、三年生を受け持ったことがあるのも理由の一つだろう。

 入学したばかりの高校生と、赴任したばかりの教師、不安要素は多々あるがやってみなければわからない。

 やたら高鳴る胸を不思議に思いながらも、俺は初日だからと新調したスーツに袖を通した。


 ――to be continued...





  
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