僕はオトコに生まれたかった。

□僕はケンカを唱えた。
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 ――ああ。

 ああ、ようやく。

 ようやく君に逢えた。

 どれほど僕が会いたかったか、君は知らないだろう。

 どれほど君を想っていたか、君はわからないだろう。

 目の奥が熱い。

 視界が滲んで、もう見えない。

 今すぐ駆け出したいけれど、僕にはその資格がない。

 なにか声をかけたいけれど、どんな言葉を選べばいいかわからない。

 喉の奥から時折漏れる声と、洟を啜る音だけが不定期に響く。

 先に口を開いたのは、男――大和斉だった。

「俺が、全部思い出したのは……お前が校舎裏で、誰かに殴られてたのを見たときだ……」

「全部、って」

 大和斉の言う「全部」とは、どこまでのことなのか。僕が死んだあともなのか、僕が裏切る前までなのか。

「俺が、死ぬまでだ」

 僕は浅ましくも、心のどこかで落胆した。

 もしかしたら、大和斉の中で、アルトはまだ恋人なのではないかと、僅かばかりでも期待してしまっていたようで。

「そ、か……」

 ごめん、と小さく呟いた。

「君を、傷つけたこと……許してくれとは言わない。<どんな理由があれ>僕がしたのは、君にとって最低なことだ。それなのに、一人被害者ぶって、懲りずに君を追いかけ回して……すごく、嫌だったろう?」

「俺が……」

 やはり、大和斉の声は怒りに震えていた。低く、低く、感情を抑えるように、それでも飛び出したいと主張するように、震えていた。

「俺が、どんな気持ちで……いたと、思う」

「ごめん」

 弁解などできない。

 前世の裏切りとは違い、現世で起きたことはすべて僕のエゴなのだから。

「俺が、どんな思いで、隠してたと思う?」

 繰り返すのは、僕の口から、はっきりと言わせたいからか。

 身を切られるほどに辛い言葉だけれど、僕に拒否権などありはしない。

 少しだけ息を吸って、押し出すように、宣言するように、自傷するように。

「怒っていたからだろう? 裏切った僕が傍にいることが嫌で、でも突き放すほど赦せもしないから……っ!?」

 突然、胸倉を掴まれ、殴られた。

 不意に訪れたデジャヴ。だけれど、重ならないところが一つ。

 大和斉は、奥歯を噛みしめ、僕を睨み付けていた。

 もう一度胸倉を掴まれ、引き寄せられる。

「俺が……っ、お前が俺を想うたびに、お前が俺から離れようとするたびに、お前を失いかけるたびに、どんな気持ちで、どんな想いでいたと思う!」

 怒りに燃える瞳の奥に、揺らめいているのは、悲しみだった。

「俺がどんな想いで、お前のいない六十年……生きたと思うッ!」

 悲鳴。

 それはまるで悲鳴のように、僕の心に突き刺さる。

「ろく、じゅうねん?」

「お前が<生きろ>と刻んだから、俺はお前のいない世界で生き続けた! すぐにでもお前の後を追いかけたかったのに、お前が許してくれなかった!!」

 僕がライリに、「生きろ」と告げたことは一度もない。けれど、<生きて>と刻んだ記憶ならたった一度だけ、ある。決して届くことはないと思っていた、心の底から望んだ最期のメッセージ。

 あれが、まさか、届いていたなんて。


 ――to be continued...
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