僕はオトコに生まれたかった。
□僕はケンカを唱えた。
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決定的な確信をつきつけても尚、男は諦めなかった。
「そ、れは……」
言い逃れのできる文句を探して彷徨う瞳は、僕の視線を受け止めない。
どうしてそこまで頑なに、自分がライリであることを認めてくれないのか。
やっぱり、
「僕を……」
アルトを、
≪許せないからなの……?≫
裏切ったことを。冷たく切り離したことを。
≪だから、覚えていないふりをして、僕を好きだと言って、信用させて、それから――突き落とすつもりだったの?≫
君も、和多留ゆいと、同じことを考えていたのだろうか。
かつての僕と同じ、裏切り方をするつもりだったのだろうか。
それはずっと、もしかしたら思い出しているのではないかと思い始めてからずっと、心のどこかで思っていたことだ。
そんなはずはないと打ち消しながらも、もしかしたらと怯えていた。
≪もしそうなら、今、嫌いだと言ってくれ!≫
なんの罪もない君を責める、心無い言葉。
わからないふりをしたままでいるのなら、それに従うつもりだ。それこそが答えだということだから。その怒りを、その裏切りを、甘んじて受けよう。
受け取ってもらえるならば、僕への執着も、捨てきれないであろう情も、切り捨てられるような言葉を。
前世の怒りに囚われる、そんな悲しい生き方をせず、幸せに生きてもらうための言葉を重ねよう。それがどんなに醜く、どんなに酷い、
呪文だとしても。
つまりこれは、最後の手段。
≪全部、嘘だったんだよね? 本当は僕のことなんて、これっぽっちも好きじゃなかったんでしょう?≫
君相手の、最後の喧嘩。
≪僕の顔など見たくもないと、君がそう言うのなら僕は……≫
再会した直後は、何度も思った。けれど実行に移すことができなかったこと。なにかと理由をつけて、だからできない、と見て見ぬふりをし続けてきた、罰。
<君>に言われたならば、決心できる。
≪君が……君が僕に消えろと言うのなら、僕は今すぐ君の前から≫
≪――やめろ!≫
僕の言葉を遮った声に、目を瞠った。
確信して問い詰めていたというのに、いざ耳にすれば信じられないという思いが湧き上がる。
≪いま、なんて……?≫
呆然と問いかければ、今まで交わらなかった視線が、真っ直ぐにぶつかり合った。
≪……消えるなんて言葉、お前の口から、聞きたくない≫
その音が紡ぐ言葉は、僕以外誰も理解できなかったはずのものだ。それなのに目の前の男は、正確に、一切の違和感もなく使っている。
「やっぱり……思い出して、いたんだね」
「…………」
男は唇を噛み、ゆっくりと、首肯した。