短編集
□人になった猫
4ページ/11ページ
(出たくない・・・)
曖はグラハムの名前が表示され、鳴り続ける携帯端末の電源を切った。
『今は、あなたといると痛いの・・・』
曖はグラハムが我慢弱いことを知っていた。
『今更遅いよ・・・』
分かっていても、放置され、疎外された感じが、曖にはつらかった。
『昔失恋した気持ちと似てる・・・』
寄ってきた人間が、曖を過去を知り、逃げていったあの感情に。
親友に近かった友も、婚約した彼も、時には頬を叩かれ、時には婚約破棄され。
曖は孤独で涙がにじむ。
(これが私が犯した罪なのね・・・)
曖は心がギシギシと大きな傷口から溢れ出す血に体を丸めた。
『私を許して』
曖は夜が明けるまで、ベッドの隅で啜り泣いていた。
翌日、曖は気晴らしに、ドライブに出かけることにした。
『レンタカー借りないと』
曖は携帯端末で、レンタカーの場所を検索しようとした。
(グラハムからの着信・・・今日は出ようかな)
曖はグラハムにメールをして、レンタカーの場所を検索した。
『久々だなぁ・・・』
曖は私服を選んでいるときにふと思った。
最近は軍が慌ただしく、出掛けることはほぼなかった。
『思いっ切り楽しもう』
曖は髪の毛を整え、必要な荷物を鞄に入れて、玄関から出た。
すると、一つ隣の人が帰ってきたところだった。
『こんにちは。まだこっちに帰ってきて挨拶まわりをしていないんですけど、琵管曖と申します。よろしくお願いします』
少年はぴくりと反応し、こちらを見てきた。
「俺は刹那・F・セイエイ」
『それでは私は出掛けるので』
曖はアパートを出て行こうとした。
「待て」
『何故です?』
「話がある」
少年は真剣な声で、曖を呼び止める。
「少し俺の部屋で話さないか?」
『今度にしてもらえませんか?私今ひとりになりたいので』
曖は必死に呼び止める少年の声を気にせず、歩いていった。