☆E☆


□君の夢
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〜♪〜♪♪〜


『ん〜〜、ん?』


自分の意思とは関係なしに、腕が勝手に万歳のポーズをする。少し、腕が痺れている所をみると、雑誌を読んでいる内にテーブルに突っ伏して寝たてしまったらしい。
よくは覚えてないけど、身体の割には頭がスッキリしてるから、いい夢を見たんだと思う。
う〜ん。思い出せない。キラキラしたモノを追いかけてたような…………いや、向こうから寄ってきてたような…………………それはなんだったのか。いつもなら、どうでもいいけど、今回はどうにか思い出したい……………だって、考えるだけで胸が温かいから。


〜♪〜♪♪〜


まだ、夢うつつでいたいのに、なんなら今からベッドで寝直して、夢の真相を確かめたいのに、うるさいインターホン音のせいで、無意識に玄関の方向に目がいく。



〜♪〜♪♪〜

〜♪〜♪♪〜♪〜♪





まだすぐに出る気になれなくて、─これ、何回目の呼び出しかなぁ〜─
とか腕に頭を置いて、玄関の方を眺めながらぼーっと考えていると、どんどんインターホンを押すのが荒くなっていく。


♪〜♪〜♪♪♪♪〜
〜♪♪〜♪♪♪♪〜〜



─この短気な押し方─
相手が誰だか気付くと同時に、少しだけイラついた。
もう絶対に出ないと心に決めて、テーブルに向き直る。
『……ふぅ〜』
もうすぐ入ってくるあいつに寝ぼけた顔を見られたくなくて、深呼吸も兼ねてわざと大きくため息をつくと、開きっぱなしになっていたアイドル誌に目を向けた。


〜♪♪〜♪♪♪〜〜

♪〜〜♪♪♪〜♪〜♪♪♪♪〜〜♪♪♪♪♪♪♪……


………



………


−ガチャ

待ちくたびれたのか、飽きたのか、解錠の音が聞こえた。ゆっくりとしまる扉が閉じきる前から聞こえる、廊下をスキップする音。
─よくこの短い廊下をスキップできるな─

その足音はすぐに部屋の前まで来る。
…と一度すべての音が消え、それから改めてドアが大きな音を立てて空いた。

─バァンッ!
『 まりなちゃぁ〜ん! なんで、開けてく〜れな〜いのぉ〜?』
と足音の持ち主は、アニメに出てくる少女のような甘えた声を出す。最後の方は、ほとんど歌っている。
言葉の内容とは裏腹にこっちはほとんど見ず、荷物をソファの端に投げると、自分もそこへダイブした。

『……………はぁ。朝っぱらからアホみたいな声出さないでよ。そしていい加減、鍵をかける癖をつけろ。………もぉ〜〜めんどくさいなぁ〜。』
週イチペースでやってくる騒がしいやつの後頭部に、呆れた声をかける。
しかし、ピクリともしないことを確かめると、まだだるい身体を持ち上げて、悪態をつきながら玄関まで鍵をかけにいく。
別に、絶対閉めなくては気がすまないというわけではないけど、自分の家の様にくつろいでいる”君“を見て、つい緩んでしまう顔を見られたくない。


『朝っぱらからって、もう昼前だよ?!え? もしかして、 まりな寝てた〜?!電気とか点いてたんだけどぉ〜!』
鍵をかけていると聞こえた、リビング兼寝室から聞こえる、滑舌の良い綺麗な声。しかし、1DKの部屋には少々でかすぎる。

『声がでかい!張らなくても、元々大きいから聞こえるってば。壁薄いんだから、気をつけてよ。』
と言いながら、またテーブルの前にに座り、彼には背中を向けた状態で、雑誌を読み始める。

『何々〜?それ、今月の?さっすが、早いな!』
飛び跳ねるような嬉しそうな声に、見なくても見慣れた笑顔が頭に浮ぶ。さっきのやりとりも忘れて、こっちも笑顔になってしまった。

『うん。発売日、昨日だからね。しっかりゲット〜♪この、小山くんめっちゃかっこいいんだぁ〜♪おっ!このまっす〜もいい!色っぽい!!朝からテンション上がる〜♪』
眠さでイマイチ掴めない自分のテンションに、自分で少し驚く。

『どれどれ〜?………あ、コンサートのだ!うわぁ〜やっぱり、ファンの子達、可愛いなぁ〜。ほんとに、嬉しそう!大好きだ!子猫ちゃぁ〜ん。』
と四つん這いでよってきて、私の左肩から雑誌を除きこむ。今のお前の方がよっぽど子猫だよ。

『耳元でうるさいなぁ〜。集中出来ないじゃん。』
─コツン
自分の頭をうるさいやつの頭にぶつける。

『いてっ!乱暴!……………お、この金髪イケメン!』
必要以上に大きな声。無視しようかとも思ったけど……………のるか。

左肩に当たる顎をはね除けて、両手を右頬の横であわせる。
そして、目一杯酸素を吸うと、距離感に対して随分大きすぎる声をあげる。
『いやーん!ほんとにイケメン!かっこいい!しかも、歌うまいし!あーあ、こんな人と出会わないかなぁ〜!ほんとに凄い!カメラマンとか、スタイリストさん!あと、ヘアメイクさん!』


『おいー!いるだろぉーここに!お前の目は節穴か!』
彼も、大きな声を出しながら自分の喉のあたり、目、と順に指を差していく。

──突っ込む所、そこ?ちょっとズレてるんだよな〜
とか思ったけど、このズレてるやつに顔を向けて話を進める。

『えー。どれどれ〜。』
私は、相手への皮肉にと、大袈裟に目をこすり、パッと目をあけた
────つもりだった───

蛍光灯に照らされた、目の前の白に近い金髪は、寝起きの目には強すぎた。
またすぐ目を閉じてしまう。眉のシワが緩むのを待って、今度はゆっくりと目をあける─


『……うわっ!うっ!……いぃぃっ〜ったぁ〜!』
元々近かったのに、さらに距離を縮めていたその顔。ビックリして勢いよく後退り、背中をテーブルにぶつけてしまった。

『…なにしてんの。』
現況のコイツは、ソファの脚の部分にもたれかかりながら、少し冷ややかな顔でこちらを見てくる。

『や、だって!…急に!……………………………その髪……目に染みて…………明るいわぁ〜』

思わず口走りそうになった言葉を飲み込み、とっさにでた単語をめちゃくちゃに並べる。
恥ずかしさと動揺を打ち消すように、さっきよりも目をもっと強く擦った。

目をあけると、イタズラッ子の様に、にニヤッと笑った目があった。

『なぁ〜んだ。オレのかっこよさに、ビックリしたのかと思ったよ〜。子猫ちゃぁ〜ん♪』

アハッと笑って腕を頭の後ろに回し、雑誌の“金髪イケメン”と同じポーズをとる。そっくりだ。ううん。同じ。まぁ、同じ人なんだから、当たり前か。

こういった所を見ると、同一人物なのだと、実感がわく。

しかも、今日は珍しく髪を自分でセットしているみたい。

そしてこの、やりなれた所を見ると、これが彼の今一番のキメポーズなのだろう。確かに、かっこいい。

しかし作り物の顔。今回は胸が跳ねたりはしない。
代わりに、自分の胸に黒いものが生まれたのを感じる。

─ウザい…─
心で呟く。
が、今日という今日は仕返しをしてやろうと、目を閉じ、ほとんど開けた事の無い女子力の引き出しをそっとあけて、それを探す。

『……… まりな? …』
少し心配そうな声を出す祐也。気配からして、もたれていた体を起こしたに違いない。…よし!

正座のまま、両腕を前に出して身体を支える。ゆっくりと目を開いて、顎をひく。眉は下げ、上目遣い。全力で涙目を作る。口は尖らせて。
『……今更、驚かないよ?……どんなゆうくんでも………いつでも………ずーっとかっこいいから…………』
声は、さっきのコイツほどはいかないけど、アニメのような甘い声を出す。
そして、語尾は首を傾げる。よし!決まった!押しに弱いコイツのことだから………

『………3点。』
『…へっ?』
『だから今の。3点な!幼なじみだから、激甘採点!オレって優し〜!』
『えぇ〜!!たったの、3点?!しかも、激甘で?!私の全力なのに〜!そして、滑ったとおもうと、ハズイ!恥ずかしすぎる!もうちょい点数をぉ〜!』
必要以上にカーペットをのたうち回ってみせる私に、手を叩いて爆笑する祐也。

『ダメでーす!!3てーん!』
そう言うと、こっち向きに横になり、頭を手に置いて腕で支え、勝ち誇ったような、嬉しそうな顔を見せる。少し、色っぽい。


まただ。その顔が綺麗で、また胸の高鳴りが聞こえる。誤魔化す様に、祐也のおでこをペチッと叩く。
『隙あり!』

『いてっ!ほんと乱暴!……だから、いつまで絶っても、彼氏出来ないんです〜』
起き上がって、笑いながら額をさする。

──
胸に何か刺さったみたいな気がする。ギュッ、ギュッってなるから、拳を作って、心臓あたりを叩く。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

『痛い。』

『……っえーっ!!そりゃそうだよ!叩いてんだもん!お前、ほんとにバカなの?!あははっ!』
こーゆー時は聴き逃さないよね。ほんとに。私の出てしまった声に反応して、目を丸くしてそんな事を言う、無邪気な奴。

─お前のせいだ!─
それは、言葉にはならなくて─できなくて─弁解するために無理に笑顔を作る。
今度はお腹をおさえて、笑いが止まらない様子の祐也。

急いで言葉を探して、適当な返答をする。
『バカですよーだ!類は友を呼ぶんですー!』

祐也に指を差したら、さらに顔をくしゃっとさせて、また手を叩く。
『あはっ!あー!確かに!でも、やっぱ最高だわ!ほんと俺らって、こんなしょうもない会話ばっかりだな!』

『……ほんと…しょうもないわぁ!……ふふっ』
その本当に楽しそうな笑顔につられて、自分も自然と柔らかく笑顔になったのがわかる。


─ほんとに一瞬だった。一瞬過すぎて見間違いかも知れない。



『…え…あ…………は…ははっ!……さっきより、今の方がまだ良いわ!なんとぉ〜?…デデーン!奇跡の10点!…ププ』

─…今…真剣な顔…?─

でもそんな事は、その後の言葉ですぐに吹き飛んだ………こいつ。

自分の言った言葉で爆笑している祐也。少し変な体制になりながらも顔を向こうに向けて、今度は胸を押さえてる。
なんだか、本当に苦しそうだ。……バカなやつ。

しかしこうなると、私達は止まらない。その可愛い笑顔がもっと見たくなって、悪ノリする。
『奇跡で10点てなんだー!もっとくれー!』


『無理ですー!10点以上はありませーん!はは、お前絶対に彼氏できないわー!』

『うるせー!彼氏は出来ないんじゃない!作らないんだーー!!私は一生NewSファンのパーナいるから、いいんだーー!!!』
これはたぶん─本心─だと思うけど。
祐也の口からでる”彼氏”という単語がいちいち胸を締め付けるから、別に対して面白くないけど笑って両腕をおもいっきり上に上げる。
ごまかしたのは、自分自身に対して。

『怖い怖い!!怖いよー!可愛い子猫ちゃんのなかに、化け猫がいるぅぅううぅぅ!!』
腕で自分の身体を抱いて大声でおどけてみせる祐也。
ほんとに楽しそうに笑うなぁ〜
なんて思ってたら────


─ドンッ!
急に部屋の壁から不自然に大きい音が聞こえる。


『…………あ…壁薄いんだった………』
顔を見合わせる。
……これは、隣の人が怒っているに違いない………

『…』

『…』


見つめ合った、長い沈黙。なんだか、気恥ずかしくなり、それを破るように祐也を見て、指でシーっとする。
と、向こうも私に全く同じタイミングで









─同じ事をした。





『……プッ…あはは………』
『……ププッ……あは…』
そして見つめあったまま、今度は同時に笑う。



小さく笑い、お互いに相手のせいにするように人差し指を何度も口の前に持っていった。
カーペットに体育座りをして、軽く疲れた身体をソファに預けると、幼なじみのあいつも自然とそうした。


『…プッ、あっはは!』
お互いの肩が軽く触れる距離、また思い出して笑ってしまう。

そしたらまた同時に向き合って、人差し指を口にあてた。

『ふふっ』
『ははっ』
目があって、また同時に小さく笑った。
祐也のおでこに少しだけ触れた自分のおでこが、少し熱くなった気がした。


でもそんなことより、今のとても心地よい空間に身を委ねたかった。














──

───
さっきの胸の高鳴りや、締め付けがなくなった頃

すこしだけ
昔の事を思い出した





少しワガママでいじっぱりだけどだいすきな”ゆうくん“


イタズラずきの“ゆうくん”



ゆうくんとつくったひみつきちに
いっしょにかくれた


さいしょはイタズラなんてイヤでないてた


でも、ゆうくんがほこらしげにわらうから

いつもさいごはドキドキしながら
見つけてくれるおとなたちを待ってた


小さい体には、ドキドキが大きすぎるから、いつも手をつないでた


いつも

いつも




隣にいた










いつもと変わらない部屋で
いつもと変わらない居心地の良い空間



今日は、いつもより暖かくて



ほんの少しだけドキドキした






いつもドキドキは隣のこいつがくれる
でも今は、昔とは違うドキドキ


気付かないフリをしてきたドキドキ


自分の大きくなる鼓動が身体を支配していくのが分かって、急いでキッチンに向かった。




──
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