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↓連載「呼ばれてますよ、執事長。」の小さな番外編です。
▼騎士団長と執事長のばか騒ぎについての一般兵たちの見解
「ルウウウアアアアアアレエエエエエクウウウウウウ!!!!!」
ドガァァアアアアアアアンンンンンン!!!!!!!
そんな巻き舌混じりな怒声とともに聞こえてきた爆発音。
呼ばれた名前とその声で、騎士団の人間にとって犯人が誰なのかはもう周知のことだった。
加えて言うなら、最近の若い兵士たちはこれを賭け事に利用するような事態になっている。
今日もその声と音を聞いた複数の騎士達が休憩時間を使ってその様子を想像していた。
「あー毎度ながら思うが執事長、お怒りだなあ。団長、今度は何を頼んだんだか…」
「……俺、あの人が団長の部屋行くとき怒声が無い日を見たこと無い気がするんだが」
「そりゃそうだ。実際無いからな」
「ふぇ?あのふぃとふぁしっふぇほんふぁにふぁかふぁるふぁったっふぇ?(え?あの人達ってそんなに仲悪かったっけ?)」
「口に入れたまま喋んなバカ」
「分かったのか」
「副音声だ」
昼飯のパンをモグモグと口に含む一人が尋ねた。
それに対しもう一人が注意し、さらにもう一人がつっこむ。
意外と良いチームワークである。
「まあこれは先輩方に聞いた話なんだけどよ…」
「わ、出た。ミー君の必殺・猫かぶり」
「ミー君言うんじゃねぇ!!」
「猫かぶりは否定しないのか」
「うるせえ、あんな奴等、猫かぶっとかねぇとやってらんねぇよ」
「まあ、…否定できないのが悲しいが」
苦笑いした一人に対して、ミー君――本名はミランというのだがここでは一切呼ばれない。何とも悲しい男である――は舌打ちをした。
「んで…話を戻すが、どうやらアレクセイ団長はどうしても執事長を騎士団に入れたいらしい」
「へ、そうなの?」
「そ。隙有らば勧誘してるんだとさ。でも、執事長はいっつも断ってんだって」
「……何で?」
「いや、そこまでは俺も知らねぇよ」
「ミー君の役立たず」
「表出ろやごるあ」
次のパンに手を出した一人の胸ぐらを掴み中指を立てるその姿はまさにチンピラだ。
今にも喧嘩に発展しそうな状態だったが、顎に手を当てて考え込んでいた一人はぽつりと呟いた。
「幼馴染み…」
「あん?」
「いや…そう噂していた奴等をこの前見たんだ。二人がいつ知り合ったのかは誰も知らないらしいし、幼馴染みなんじゃないか…って」
「あー成る程…確かにそう思っても仕方がないと思うが。お前、あの二人の容姿見ろよ」
「ミー君より百倍カッコいいよねー」
「てめえおちょくってんのかああ!!」
「お、落ち着け…」
もっさもっさと食べる手を休めない彼にミー君が怒りをあらわにするが、その間に
どうどう、とでも言うようにもう一人が入る。
一番背が高い彼がその役割を担うため、必然的にミー君は引き下がるしかない
何度でも言うが良いチームワークである。
「…とにかく、団長の年齢って確か三十代
前半とかそこらだろ?比べて執事長はほとんど俺らと変わんねーような感じしてるし、幼馴染み…は違わねえか?」
「えーでも実は執事長は若作りしてるだけでアレクセイ団長と同い年だったりして……あ!年上っていう可能性も!!」
「無い無い」
「俺も、それはちょっと……」
「ちえー」
名案だと思ったのかその目をキラッキラとさせたが、二人の言葉に彼はぶすくれてしまい、もう一個パンを口に含む。
「だが…あの人達が親友なのは確かだ。断る理由があるとは…俺には到底思えないな」
「でもその結果がアレだぜ?昔はここ(騎士団本部)にもちょくちょく出入りしていたらしいが、最近じゃああのぼや騒ぎ以外に来てないらしいし……て、あ」
何かに気づいたらしいミー君が目を見開き、眉に皺が寄った。
「……まさか、勧誘するためだけにあんなふざけた騒ぎを起こしてんじゃねえだろうな」
「……………そんなわけ、ないだろう」
「おい、その間は何だ。間は」
「というか、前々から気になってたんだけどミー君って執事長のこと嫌いなの?」
「ミー君言うんじゃね…て、は?」
キョトンとした顔のミー君に対し、彼は言葉を続ける。
「だってよくあの人の愚痴言ってるし、いつも睨んでんじゃん。僕、いつ気付かれるかヒヤヒヤしてんだよー?」
「……愚痴はともかく、睨んでるように見えるのはただ単にミー君の三白眼が原因だ…」
「あ、そっかー。ミー君目つきめっちゃ悪いもんねー」
「お前ら、その呼び方マジでやめろ……」
「んで?何で?」
ぱっちりとした丸い目がじーっと見つめる。
眠そうなタレ目もじーっと見つめる。
それを見てぐったりしたようにテーブルに顔を伏せたミー君はそのまま言葉を続けた。
「…この前、俺、団長閣下私室前廊下修繕隊メンバーに選ばれてさ、」
「え、待って待って。僕、自分自身ボケ担当だと思ってたんだけど。ミー君何かっさらってんのさ」
「……名前通りの、活動なのか?」
「そ」
ミー君以外の二人は知らなかった事実だったが、最近じゃメンバーがかなり増えてきた。
それだけ被害がでかくなってきたということだろう。
「この前は窓、その前はドア、その前は壁…。修理費バカになんねえんだよマジで……」
「あちゃー」
「?…だが、執事長も修繕には一応、手を貸してくれているんじゃ…ないのか?」
「…………」
「え、ちょっとミー君、何その沈黙」
「……手伝ってくれてるっつーの。むしろ一人で直そうとする勢いで手伝ってくれるっつーの」
「じゃあ、何で……」
「……お前らにこの気持ちが分かるか?城での仕事もたくさんあるってのにこっちのこと優先してやってくれて翌日城の警備しに行ったらめっちゃ濃い隈浮かべてふらっふらになりながらも通常通り仕事をこなそうとするあの人を見たときの気持ちをよぉぉぉ!!!」
テーブルに頭をガンッとぶつけたミー君はそのまま動かなくなった。
それを見た二人は顔を見合わせる。
「……あー…つまり」
「こう胸にグサッと」
「同情心というか…」
「罪悪感というか?」
「芽生えたわけか……」
「つまり!嫌いなわけじゃないんだね」
「あたりめーだバカヤロー。どこに嫌いになる要素があんだよバカヤロー…っておいてめえ何個パン食ってんだ」
「ん?ミー君いらないんじゃないの?」
「は?何言って……」
嫌な予感がしたミー君はガバッと頭を上げた。
三人分の昼飯が入ったバスケットはすでにすっからかん。
二人の口はモグモグと動いている。
「おっお前ら〜〜ッ!!」
「あ、やっば」
「……脱出あるのみ」
「イエッサー隊長!!」
「待てやごるあああああああ!!!!」
その数ヵ月後、この三人がキャナリ小隊に配属され、噂の執事長と邂逅してからのなんやかんやは、また別のお話である。