リクエスト

□震える君を抱きしめた
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 青峰と付き合うことになればこうなることはわかりきっていたし、覚悟はしていた。なんせ、こちらが懸命に隠そうとしているのに当の本人は隠そうとしていないのだから。
 ベタに体育館の裏。けれどそこは普段から誰も来ないためちょっと悪いことしたいお年頃の生徒にはいい穴場だった。
 そこに呼び出された今吉は鬼のような形相で自分を睨んでいる女子たちをさて、どうしたものかと思案しながら見つめた。怒った女子は怖い。それは物理的にも精神的にも。なんせ彼女たちは怒りに身を任せてただ暴れるのではなく、決して周りに気付かれないように今吉を傷つけようとする。
 助けを呼ばれるのが厄介だと思っているのか、はたまた彼にばれたくないからか。この場合は後者だろう。
 苛立った様子の女子たち。せっかくかわいらしい面立ちなのにもったいないなぁ、と思っていると一人の女子――おそらくこの中でリーダー各なのだろう――が口を開いた。

「青峰君に、近づかないでくれない」

 いきなり本題に入る声は嫌悪感を隠そうともしていなかった。

「何を勘違いしているのか知らないけれど、キモイのよ」

「だいたい、男同士で付き合うとか、頭おかしいんじゃないの?」

 容赦なく自分を抉る言葉は正論だった。
 この国で同性愛は異質なものだ。男女、異性で付き合い、やがて結婚し子を産む。それは人間――否、生物が持っている子孫を残そうという本能のようなものだろう。それゆえに、それに反するものは異質なものとして忌み嫌われる。
 だからこそ、反論なんてできなかった。否、しようとも思っていなかった。
 だって、それは自分だっていつも思っていたことだから。
 何も言わない今吉に女子たちは次第に飽きたのか、それとも何も言わないことが余計に腹立たしく感じたのか大きく舌打ちを打つと去って行った。
 そして、そこからだった。
 今吉に対する陰湿な嫌がらせが始まったのは。
 嫌がらせについては特に気にはならなかった。なにせ、中学のころは悪童と言われていた後輩がいたのだ。女子たちがやるような嫌がらせがままごとだと思えるほどの陰湿ないやがらせだって彼はやってのけるだろう。
 それよりも大変だったのは青峰だった。
 野生の勘を持っているせいか、野生そのものだからかわからないが青峰は今吉に何かあったと、勘付いてしまった。そこからの青峰の行動は早かった。とりあえず元凶を探して殴ろうという、何ともアホなことをやろうとしたのだ。それを宥めるのは大変だった。

「なんかあったんだろ。言えよ」

「せやから、何もないゆーとるやろ。ほれ、ボールあるで、バスケしに行き」

「オレは犬か!!」

 ポイ、とバスケットボールをパスすればあとはもうバスケに気を取られて会話は終了。この時ほどアホ峰でよかった、と思ったことはない。
 青峰を何とかしても嫌がらせは終わらない。裏でいろいろ手を回し、嫌がらせ等は何とかやめさせることはできた。裏で手を回すことに関してはあの悪童でさえもドン引きするほど得意なのだ。
 それが最良だとは思わなかったがまさかここまで最悪な結果になるとは、キレた女子ほど手に負えないものはないとつくづく思う。
 ニヤニヤと薄気味悪え実を浮かべている見てわかるほどにベタな不良たち。場所は倉庫だ。昔ここで事故があったとかで安全面からもう使われていない古びた倉庫は学園からは離れた場所に位置している。ここで何があったとしても良くて翌日、悪くて数日は気づかれないだろう。
 集団リンチか、となんとなく思った。

「お前、あれだろ? ゲイなんだろ?」

「アハハ。聞いたときはキモッて思ったけどこれはこれでありだよな」

 だが、展開は自分が思ったのとは違ったほうへ向かおうとしていた。背中を伝う汗が冷たい。否な予感しかせず、今吉はこの状況からどう逃げるか考えた。
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