中編用

□黒
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「おー、懐かしの東京だなぁ」

そう虹村は言った。
アメリカからの一時帰国。
久しぶりの日本に懐かしさに虹村は目を細めた。

「と、すみません」

誰かとぶつかり、虹村は謝罪する。
燃えるような鮮やかな赤。
その髪を見て、そう思った。

「(つか、でけ…)」

自分よりも背の高い人に唖然とする。
が、そこまで驚くかとはなかった。
なぜなら悲しきかな、中学時代自分よりも背の高い奴らはわんさかいたからだ。

「こっちこそ、よそ見してたんで…」

「火神君」

「うを!?黒子、いつの間に!?」

「今です」

火神は大袈裟に肩を揺らし、後ろを振り返った。
黒子はスポーツ飲料の粉末や冷却スプレーなどが入った袋を抱えている。

「どこいってたんだよ。捜したぞ」

「すみません。バニラシェイクが僕を呼んでまして」

「うん。マジバにいたんだな」

「黒子?」

懐かしい声に虹村が驚いたように、声を上げた。
火神の後ろから顔を覗かせれば懐かしの後輩がいた。

「虹村主将…!」

「え、知り合いなのか?」

火神が黒子に聞くと、黒子は頷いた。

「中学の時の主将だったんです。主将、この人は火神大我君です」

「俺はもう主将じゃねーよ。」

「そうでした、つい」

久しぶりにあった虹村に黒子は嬉しそうに話す。
その様子を見るだけで、ずいぶん虹村を慕っていたのだと火神は思った。

「へー、火神もバスケやってんのか」

「お、おう。…です」

「敬語変だぞ」

「火神君、毎日敬語使っているんですから慣れてください」

立ち話もなんだからと、近くのマジバに三人は行った。

「にしても、黒子。……相変わらず影薄いな」

「よく迷子になります」

「ドヤ顔で言うな」

キリッとした表情で言う黒子に、火神は黒子の頭を叩いた。
毎度捜す身にもなってほしい。
虹村はその様子を楽しそうに見ていた。

「にしても、良かった」

「え?」

「卒業してすぐにアメリカに行ったからな。お前らの事、心配してたんだけど」

青峰が才能を開花し、それに絶望していたのを虹村は知っていた。
引退し、卒業してからは帝光の事を知るすべはない。
いくら心配していても、手段がなければどうしようもなかった。

「楽しそうで良かったよ」

「主…、虹村さん…」

思わず主将と呼び掛けた、黒子は言い直し言った。

「僕達なら大丈夫です。確かにいろいろありましたが、今はみんなそれなりにやっていますから」

そう、安心させるように言った。

「そっか」

虹村は笑うと黒子の頭を撫でた。
ついでとばかりに火神の頭を撫でる。

「黒子のこと、よろしくな」

「…うす」

撫でられた頭に手を置きながら、火神は頷いた。
虹村は立ち上がる。
だいぶ時間がたってしまった。
黒子が持っていた荷物を見る限り、部活に使うものだろう。黒子は、休みな日にパシられただけだから気にしなくていいと言っていたが、早く帰ったほうがいい。

「黒子」

「はい。…いたっ」

ビシッ、と虹村は黒子の額にデコピンした。
久しぶりの痛みに黒子は呻いた。
虹村はニヤリと笑う。

それは、中学時代よく見た笑みだ。

「がんばれよ」

そう言って、虹村はマジバから出ていった。

「なんか、すげー先輩だな」

「まぁ、灰崎君を虫の息にしてましたからね」

「マジか」

今日、話した印象ではとてもそうは見えなかったが。

「けど、」

黒子は自慢げに胸をはる。

「とても頼れるひとですよ」

そう、誇らしげに言った。



014/6/1

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