中編用
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さらさらと溢れる白い砂。
それを見ていつも思うのだ。
まるで、命みたいだな、と。
「ゴホ、ゴホ…ッ」
病室に響く苦しげな咳の音。
口元を押さえていた手には血が付着していた。
「あ…、これは…ヤバイかも…」
そう、悲しげに呟く声は酷く弱々しかった。
* * *
「高尾の病状が悪化…!?」
いつもどうり遊びに来てみれば、高尾の病室から忙しなく看護師や医師が出入りしているのが見えた。
聞けば、夜中に高尾の病状が悪化し、危ない状態なのだと言う。
それを聞き、眼鏡の奥にある瞳が揺れた。
「ごめんなさいね」
看護師はそれだけ言うと、薬を取りにか医療機器を取りにか早足で廊下を進んでいった。
緑間は呆然と高尾の病室を見つめる。
危ない。
なにが?
命だ。
高尾が、死ぬ?
「そ…、んな」
呟いた声は掠れていた。
どこかで、砂がこぼれ落ちる音が、聞こえた気がした。
* * *
命はまるで砂時計のようだとどこかの本で読んだ気がした。
どんな本だったかは忘れたが、とても悲しい物語だったのは覚えている。
さらさらとこぼれ落ちる砂は命のようだ、とそう表現していたのだ。
限りある砂がこぼれるように、命にも限りがある。
そんな、当たり前なことを今になって痛感した。
苦しい。
息をすることさえ億劫で。
でも息をしなければ死んでしまうから、しなくちゃいけない。
遠くから人の慌てた、必死な声が聞こえた。
たくさんの人が自分に呼び掛けている。
なぜ、そんなに必死なのだろう。
ぼんやりとする中でそう、思った。
心地よい睡魔が襲ってくる。
眠ったら苦しみから解放されるだろうか。
なら、眠ってしまおうか。
無理に抗うこともなく、睡魔に促されるままに眠りにつく。
さらりと、何かが揺れた。
青葉のような、深い深い、深緑が。
それは。
その色は、とてもきれいな色だ。
自分の好きな色。
どこか、寂しげな瞳を持っている、あの人の――色。
「し………ちゃ、ん」
死にたくないと、心から思った。
014/3/18