中編用

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たとえ、どんなことをしてでも守ってみせる――。


「……ぅ」

小さく呻き青峰は目を覚ました。
目を覚ましたとき目に入ったのは薄暗い汚れた天井ではなく、きれいな清潔感のある白い天井だった。
戻ってきたのだとわかった。
いつの間にか気を失っていたらしい自分はおそらく運び込まれたのだろう。
治療されているのがその証拠だ。
痛む傷をよそに青峰は上半身を起こした。
誰かが近づいてくる気配がしたのだ。
それもあの忌々しい男の。

あの日の事が、忘れられない。

雨が、降っている。

青峰の中であの頃から降り続き止む気配すらない雨が。

叩きつけ、壊す雨が、晴れないのだ。

「入るぞ」

一言添えられ男が入ってきた。
自分から今吉を奪った男。
自分を地獄に突き落とした男。
青峰は男を殺気のこもった目で睨む。
男はせらせらと笑った。

「お疲れ様。だいぶ邪魔者はいなくなってきたよ」

「ああそうかい。そりゃよかった」

鼻で笑いながら言う。
邪魔者。
今回殺した男などを除いたほとんどがなんも罪のない人達だ。

「まぁ、元気そうで良かった。まだお前には殺ってほしい者がいるからね」

男はそう言うと部屋から出ていった。

「……あんたはいつまでそこにいる気だ?」

青峰の言葉にピクリと影が動いた。
そろりと入ってくる者は今吉だった。
ただ唇を固く結び青峰を睨んでいるが。

「怒んなよ」

その様子に青峰は苦笑した。
今吉は黙したまま首を横に振った。
今吉が青峰の腕が届く範囲まできたところで、青峰は腕を伸ばし今吉を抱き込んだ。
今吉の頭に顎を乗せ息を吐く。

今吉から香る僅かな雄の匂い。
それに青峰は顔をしかめた。

「…心配、した…」

小さくぐぐもった声。
青峰は瞬きを数回した。

「怪我、負ったってきいて、心配した」

「…ぁあ…わりぃ」

優しく今吉の髪を梳く。
さわり心地のいい、艶やかな髪が指の隙間からこぼれ落ちる。

「もう、怪我せんといて…」

今吉の小さな、願い。
いつも大小問わず怪我をする青峰を見て心が張り裂けそうになる。
全ては、自分があの男に捕まったせい。

「大丈夫だ」

自分を抱き締める腕に力がこもったのを今吉は感じた。
温かいぬくもりが身を包み安心する。

「もうすぐだから…」

もうすぐ、あの男が言う邪魔者を全員殺し終えるのだ。

「だから、待っててくれ」

もうすぐ、ここから出してやれるから。
青峰の言葉に今吉は頷くことしかできなかった。

「あんたは、俺が守るよ」

それが、全てを捨てることになったとしても。

それが、青峰の願いなのだから。



013/11/14 end

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