リクエスト
□甘えたがりの子ども
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本当に、この人は。
甘えていいのだという、頼っていいのだという。そんなこと今まで言われたことなんてなかった。
父親をはじめとした親族たちは自分が完璧であることを望み、甘えは許されなかった。周りは気のいい人ばかりだったが完璧な自分を見ているせいか自分が悩むといったことはないと思っている。
だからそうであろうとした。完璧であろうと、何一つ悩みなどない負けることもない完全無欠な赤司征十郎を。
「……でも、虹村さんアメリカに居るじゃないですか」
「うっせーな。そこは電話とかあんだろーが」
「いたっ」
減らず口を叩く赤司に虹村は容赦なくデコピンを食らわせた。よくこうして後輩に食らわせたものだと思い出した。よくやっていたのは青峰や黄瀬だったが赤司にもたまにやっていた。
完璧であろうとする赤司になんとなくムカつきムカつくままにデコピンを食らわせていたのだ。その時のあの虚を突かれたようなキョトンとした表情は童顔も相まって幼く見えて。
ああ、きっとこの顔の赤司が本当の完璧を演じていない赤司なのだと思ったのだ。
そしてそれは今も同じで。額を押さえキョトンとした表情を浮かべる赤司に虹村は声を上げ笑った。
* * *
あれから虹村と別れた赤司は自室のベットに横になっていた。買って来た参考書は机の上に無造作に置かれている。
意識が薄れ、もう一人の自分に変わっていくのがわかる。本当は抵抗できるがあえてしない。これは自分に与えた罰であるのだから。
いつか、近いうちにこの自分のもう一つのどうしようもない自分を倒してくれる者たちが――きっとそれはキセキの世代と呼ばれている仲間たちだろう――現れるから。
――何のつもりだ――
もう一人の自分がそう尋ねてきた。完全無欠、完璧であり続けるために生まれたもう一人の自分。
なにも、と答えた。なんでもないと。
ただ、決心しただけだよ、と。
――なんでもいいが、この体は今では僕の物だ。勝手な行動は慎んでもらおうか。所詮君は負け犬だ――
そういって、それっきり何も言ってこないもう一人の自分に赤司は笑った。
負け犬。確かにそうだろう。紫原に負けそうになり、彼と変わった自分は確かに負け犬だ。それでも。
――頼っていいんだ、甘えていいんだ。
そう言って、頭を撫でてくれる人がいるから。無条件で、自分を受け入れてくれる人がいるから。
たとえ負け犬でも、頼っていいと言ってくれる人がいるからそれでも構わないとそう思ったのだ。
甘えたがりの子ども
(完璧である必要がないことに、安心したのだ)