リクエスト

□甘えたがりの子ども
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 使用人から渡された傘を差し、赤司は本屋に向かっていた。こんな雨の中出かけたくはなかったが、どうしても欲しい参考書があり仕方なく出かけることになったのだ。
 こんな天気のせいかいつもより人の通りが少ない京の道。濡れないようにと参考書が入ったカバンを抱え赤司は心なしか歩くスピードを速めた。

「赤司?」

 傘をさしていて自信がないのだろう。胡乱げな声が赤司の耳の聞こえた。その声を、赤司は知っていた。つい最近まで聞いていた、声。
 ドクン、と鼓動が痛いほどに強くなった。頭がガンガンと痛み、意識が遠のいていく。

「赤司!?」

焦ったような声が心配そうに自分の方に触れたのがわかった。

「大丈夫か?」

心配そうに顔を覗きこんでくる顔は。

「……虹村、さん」

アメリカに渡米したはずの、一つ上の先輩だった。


* * *


 雨だからか、客の少ない喫茶店。それぞれ好きな飲み物を注文した二人はしばらく無言だった」

「赤司」

「……はい」

 呼ばれ、コーヒーから視線を外し虹村を見た。真っ直ぐに、どこか弟や妹を見つめるような、温かい眼差しで虹村は赤司を見つめている。
 ああ。自分はこの瞳に惹かれたのだった、そう素直に思い直した。拗ねたように尖らせた唇。強暴そうなつりあがった目。すぐに、主に灰崎にだが手や足が出るような人だった。それでも、この人は自分のなにもかもを受け止めてくれていた。
 赤司財閥のお坊ちゃんでもなんでもない、ただの赤司征十郎として接してくれていた。

「元気だったか?お前はすぐに無理するからな。……って、途中で主将を押し付けたオレが言うのも変な話だが」

「そんなことありません。虹村さんこそ元気そうでよかったですよ。……‟オレ„は平気ですよ」

 なんとなく言えなかった。虹村が卒業してから起きたこと、起こしてしまったこと。自分になにがあったのか、周りに何かあったのか。言えなかったし、言いたくはなかった。
 そう言って、コーヒーを飲む赤司を虹村はじっと見つめていた。あくまでまっすぐに見つめてくる彼は2年前と何も変わっていなかった。

「……許されないことを、してしまいました」

 気づいたら、話していた。話さないと決めていたはずなのになのに、虹村があまりにも真っ直ぐに自分を見て来るから。昔のまま、かわらずに。
 だから、甘えてみたくなってしまった。

「謝っても、許されないことを。多くの人を傷つけ、大切な仲間を傷つけてしまったんです」
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