□そばに、ずっとずっと
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雨がしとしとと降っている六月。
梅雨の時期に入ったため、心なしか空気がじめじめする。

「せやから、ここの文法がちゃうんやって」

「あ?あー」

高校を卒業し、一年。
大学生活を満喫していた今吉の元に、青峰が勉強道具を片手にやって来た。
その時、今吉は無言で携帯を取りだし、諏佐、若松、桜井、桃井、原澤に電話をかけた。

「今日か明日、世界が滅亡するで!」

「いや、しねーよ」

「あの青峰が勉強道具を持ってきよった!世界が滅亡する前兆や!」

「なんなんだよ、アンタ!!」

そんな会話をしたのが数十分前。
それから、共に英語を勉強していた。

「しっかし、なんで急に英語を勉強するきになったん?」

「んー?あー、俺アメリカ行く予定だからな。英語ぐらいはできとかねーとさ」

かるく言った青峰。
アメリカに行く。それを聞いて今吉は一瞬固まった。
驚いたように、目を見開いている。
だが、それは一瞬ですぐにいつもの笑みに戻った。

「そーか」

けれどなぜだろう。
少し、胸の中がもやもやする。
ムカムカする。

「せやったら、なおさら頑張らんとなー」

きっと青峰はバスケを続けるつもりなのだろう。
バスケの本場なわけあって、日本よりもアメリカのほうがバスケは強い。
青峰ほどの才能を持っているなら、きっとアメリカでもやっていけるだろう。

「あーダメだ。わかんねー。I can't speak Englishさえ覚えときゃ大丈夫だろ」

「“私は英語を話せません”ってなめとるやろ、自分。てかなんでそれだけ発音が無駄にいいんや」

他は全然駄目だったのに、なぜその英文だけ発音が良いのか。
青峰は胸を張った。

「これだけは全力で覚えた。英語のテストでも問題全部にこれ書いたしな」

「英語なめんな」

べし、と青峰の頭にチョップを落とす今吉。
痛みで頭を押さえながら、青峰はそれにと続けた。

「アンタも一緒だし、別に大丈夫だろ」

「は?ワシも行くん?」

「え、行かねーの?」

どうやら青峰の中では今吉も一緒にアメリカに行くことは決定していたらしい。
驚いたように、青峰は聞き返した。

「いや、……そうか、そうやなぁ」

なぜだろう。
さっきまであったもやもややムカムカがすぅと無くなって行く。
今吉は嬉しそうに笑みを深めた。

「なら、覚えんでも大丈夫かもなぁ」

そう、楽しげに言った。



そばに、ずっとずっと
(君と共にいよう)

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