□甘えるけど気にしないで
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ひどく目眩がする。
ずきずきと鳴る頭は割れるかのように痛い。
咳をする喉は熱く痛く、咳をするのが億劫だ。
深緑の髪が無造作に枕に広がって、その持ち主は熱に魘されていた。

「さい、あく…、なのだよ」

弱々しく呟く緑間はその後、睡魔に誘われるがままに眠りについた。



* * *

冷たい温度が額から伝わる。
緑間はそれに気づき、緩慢に瞼をあげた。

「あ、起こしちゃった?」

「たか…お…?」

額に乗っているのは水に濡らしたタオル。
緑間は高尾の姿を認め呟くと、高尾はにかりと笑った。

「なぜ…いるのだよ」

今の時間帯は部活をやっているはずだ。
時計を見ながら言う緑間に高尾は苦笑した。

「忘れたの?今日は部活は休みだぜ」

「…そう言えばそうだった」

なんでも体育館の整備とかで今日は部活は休みなのだ。

「…なぜ、いるのだよ」

そしてまた同じ質問をした。
確かに今日は部活は休みだが、だからと言って高尾がここにいる理由にはならない。
高尾は肩を竦めた。

「そりゃあ…心配だったからだよ」

「心配…?」

「風邪だって聞いたからね。健康優良児の真ちゃんが風邪をひくってあまりないから」

だから見舞いに来たのだ。
そう言えば緑間は黙した。

「真ちゃん、寝たらいいよ。風邪ひいてるときは寝るのが一番だから」

黙した緑間に高尾は疲れたのかと思ったのか、そう言ってきた。
そして、そっと労るように緑間の頭を撫でる。
自分よりかは小さいがそれでも、試合の時は頼りになる手。
この手が好きだ。
いや、手だけじゃない。声も、顔も、雰囲気も。

高尾のすべてが好きだ。

撫でられる感触を楽しみながら緑間はふとそう思った。
熱がなければ絶対に思わないような感情が胸を占める。

「じゃあ、俺帰るわ」

撫でていた頭から手を離し、高尾は言った。
離れていく体温にすこし寂しいと感じる。
だから。

「………真ちゃん?」

高尾は困ったように言った。

「これじゃあ帰れないんだけど」

制服の裾を掴む緑間の手をみて、緑間の顔を見て困ったように笑う。

「ここにいろ」

掴む力に力を入れる。
高尾はそんな緑間の手に自分の手を重ねた。

「……りょーかい」

優しい、慈しむような声に緑間はふにゃりと笑うとそのまま眠りについた。



甘えるけど気にしないで
(それはきっと熱のせいだから)

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