text-XWリレー小説
□第十二章
「紅茶を持ってきたんだ……あと、トロンが買ってきたケーキも」
X兄様は、明らかにぎこちない動きでトレーを差し出した。ティーカップに並々とつがれた琥珀色の液体もそれに伴い危なげに揺れる。
「子供じゃねぇんだ……そんなもんにつられるかよ」
ベットからのそっけない返答に、僕は思わず息をつく。それ、喧嘩して引きこもってる方のセリフでしょうか?
「ほら……Vも呆れているだろう、いい加減に……」
「お前はどうなんだよ!」
僕の気持ちを代弁したX兄様の言葉は、W兄様の激昂によって遮られた。理不尽にもW兄様は、こちらを鋭く睨み付ける。流石の僕もイラッとしますよ……その向けられた目が赤く腫れ、自信に満ちているはずの身体を小刻みに震わせていなければ。
「……どう、とは?」
「とぼけんなよ……俺のこと、どう思ってんだって言ってるんだよ!」
「W兄様……」
ベットに近づこうとするも、細められたX兄様の目により僕は制せられる。
「……それに答えて、何の意味がある?」
「っ!……」
カチャリ、とサイドテーブルへカップを置く音が静かな部屋に響く。
「お前やV……そして私もナンバーズを集めるための手駒に過ぎない。違うのか?」
その冷静な声色に僕は無意識にぐっと胸元を抑えた。事実だが……とても、苦しい。哀しい瞳でそう語るX兄様の姿を見ること、そしてさりげなく僕やW兄様だけでなく、ご自分も「駒」へ含めていらっしゃることも。
「……あとから行く。先にリビング行ってろよ……茶も冷めるだろ」
W兄様は反抗することなく、そう言った。その姿は、やはりグッタリとしている。彼の何もかもが抜けきった、諦めの表情がちらりと見えてぞっとした。
「行こうか、V」
肩へ置かれた手にはっとする。僕は小さく一礼すると、X兄様に続いて部屋を後にした。
「あの、X兄様……」
「なんだ?」
「……いえ」
「すまない」
ずるいです。そうおっしゃられたら、僕は何も言えませんよ。ガラス玉のような瞳をした兄の後ろを俯きがちに歩く。
ガシャン、と何処からか陶器の壊れるような音が聞こえた気がした。
結構、美味しそうなお茶―多分、W兄様のお好きなキャンディのファーストフラッシュでしたのに。勿体ないな。ぼんやりとした頭でそんなことを考えていた。
無機質な表情を浮かべる兄たち。なら自分は今、一体どういう「顔」をしているのだろう……?窓にうつる桃髪の少年を見て、僕はそっと目を閉じた。
僕たちの絶望は、深い。
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