text-XWリレー小説
□第八章
【SIDE:トロン】
乱暴に廊下を闊歩する長男、部屋に引きこもる次男、そんな兄たちを心配する三男。
あーあ、気まずいなあ。
折角、買ってきたケーキもこんなんじゃ喜んでもらえないよね?
「どうしたの、V?」
眉間に皺を寄せているVに笑顔で問いかけると、彼はますます渋い顔をした。
「分かっているのに聞かないで下さい」
「ええー?僕、難しいことは分かんないなぁ」
口角を上げたまま、ことん、と首を傾げる。そう、愛らしいお人形みたいに。それでもVは、嫌そうな顔のまま深い溜息をついた。
「……貴方がやってもいやらしいだけですよ」
「ひっどいなぁ。いつからそんな口をきくようになったんだい?」
これは相当キてるね。思わず頬を緩めそうになる。でもそこは空気を読んで、僕は無表情を作った。
「どうせWのことでしょ?大好きなのに虐めちゃダメじゃない」
自分のことは棚に上げて、そう言ってやる。
「そんな野暮な真似はしませんよ。ただ、兄として叱咤しただけです」
「叱咤ねぇ……僕には」
恋人として嫉妬したように見えるけど?
そう呟いた瞬間、Vの表情が凍りつく。予想していた通りにね。
「馬鹿なことを……例えがまるでなっていませんよ」
ほら、声がちょっと震えてる。怖いんでしょ?「あんなこと」を実の弟にして、許されるはずないって思ってるから。
「そう?的確だと思うけど」
許せないんでしょ?愛するヒトが、見ず知らずの輩に汚されていくんだもん。
「まあ、男に抱かれたくらいで泣いてちゃダメだよねぇ?Vだってさ、昔は頑張ってたんだから」
精一杯背伸びをして、端正な息子の顔に触れる。流石に成人して、頬も大分こけたみたいだね。まあ、今だってウケる口かも分からないけど。
「そうですね……」
「うん、ごめんね」
目的のためには手段を選ばない。そのためには、息子だって売る。
……それで彼らを傷つけてるのも知ってる。
「ねえ、V。君は、僕と同じことをしてはいけないよ」
脈絡もなくぽつりと零した言葉に、Vは不思議そうな表情を浮かべた。
一体、どういう……そう言いたげな雰囲気を遮るように、僕は彼へそっと箱を押し付ける。
「ほら、Wにもあげてきてよ。彼、甘いもの大好きでしょう?」
仲直りにはプレゼント。お決まり過ぎてそれこそいやらしいけど、こうしなければ、ガトーショコラもモンブランもショートケーキも、みんなみんな僕の胃袋に収まるだけだ。
そう、折角、君たちのために買って来たんだからさ。
「ありがとうございます……」
「ちゃんと紅茶もいれてあげなよ」
一々素直に頷くVが面白くって、ついつい微笑んでしまう。
ねえ、V。君は僕と同じことをしてはいけないよ。
大好きなものを守るために恨まれ続ける人生なんて、君には若すぎる選択だから。
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