text-XWリレー小説

□第六章

「W、入るぞ」

返事はないが、私は扉をそっと押し開ける。

どうせ断られたところで強引に入るまでだ。
そのくらいの兄特権はあっても良いだろう。

心の中でそう言い訳しながら、ベッドへしがみつくWにそっと近づく。

「……来るな」

あと数歩でやつの背後だというとき、ようやくWは言葉を投げつけてきた。

出てけ、とは言わないのか。

嗚咽を耐えるような弱弱しい口ぶりに、私はあからさまな溜息をついた。

「何を子供のように甘えている。そんな様子ではVだって心配するだろう」

「……うるせえ。別に何でもねえって」

「だったら顔を上げろ。シーツが汚れるだろう?」

「……俺の部屋だ。どうなったって……別にいいだろ」

くぐもった声と所々に挟まれる微妙な間が、癪に障る。

乱暴な言葉遣いも、今日は全く覇気が感じられない。

私との会話、そのものに集中できていない。

嗚呼、そうだ。これは「あのとき」と同じではないか。

「誰かに抱かれたか?」

びくり、と面白いほどWの身体が震える。
分かりやすくて結構だ。

「処女でもあるまいし、身体を重ねたくらいで男のお前が何を失う?」

ゆっくりと脚を進める。やつの頭部には、もう安易に手が届く。

「ナンバーズを得るには、手段を選んでいる暇などない。実際、お前は何度も抱かれているだろう?」

ガッと勢いよくやつの髪を掴んで引っ張り上げ、そのまま無理に顔を引き寄せる。
情けなく濡れた瞳の奥に激しい怒りを感じた。

「どうした?何か言いたそうだな」

「…………うるせえ」

聞こえないな。

口元に笑みを浮かべながら、私はやつの顎を乱雑に下から掴んだ。

「ふっ……なんなら私がお前の練習相手になってやろうか?たかが男に抱かれたくらいで泣かれては困るから……」

ドンッ

鈍い音が腹部で響いた。小さく呻き声を上げてしまうほどの痛みが走る。
こいつが蹴ったのか。器用なものだ。
相変わらず目は人形のようだが、理性は確実に私を拒んでいるらしい。

「……出てけよ」

「言われなくとも」

絞り出された声に応え、Wをベッドに投げ捨てた。
ドサリ、と面白味のない音がしてややスプリングが軋んだ。

私の顔は、終始微笑んでいたと思う。

さぞかしWも不快だったことだろう。

それ以上に自分が嫌悪感を覚えているのは……きっと気のせいだ。



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