text-XWリレー小説
□第四章
【SIDE:V】
あいつの様子がおかしい。
「おかえり、W」
忙しなく近づいてきた足音が止まり、私は本を閉じて顔をあげた。
「ああ」
ただいま、くらい言えば可愛げもあるが、この3つ下の弟は相変わらずの仏頂面だ。
「また手ぶらかい?」
嫌味な言葉と共に紅茶を淹れると、Wは素直にカップを口へはこんだ。
「…………」
「W、何かあったのか?」
「?!……ッんでもねぇよ」
Wが乱暴な手つきでソーサーを置いたため、派手な陶器の音が部屋に響いた。
まだ中身は残っているというのに、やつはそのまま私に背を向けると逃げるように出て行ってしまった。
「まったく……品のないやつだ」
味が悪いわけでもないだろう。いつも通りの鼈甲色の液体には、薄く波紋が広がっていた。
「何でもないはずが、ないだろうに……」
誰に言うわけでもなく呟き、私は本を棚へ返した。とても続きを読む気になれない。
「……はぁ」
落ち着かない。
それもこれもあの愚弟が悪い。
何故、いつものように文句を言いながら紅茶を飲みほさない?
こんなに残されては、私に失礼だろう。
……あのような顔をされたら……女のような泣き腫れた顔を見せられたら、何も言えないではないか。
Wの口づけたカップをそっと口元へ運ぶ。
お茶にそぐわない、甘く柔らかな味がする。
そのまま瞼を下ろせば、あのときの感覚がぼんやりと蘇る。
あれは私の過ち、私の罪。
その割には、罪悪感以上に酷く美しい思い出が残る。
そういえば、あのときもWは泣いていたな。やはり、女のような儚い涙を流していた。
真っ向からも、ましてや卑怯な手を使ったとしても、やつの心を私は泣かせてばかりだ。
……嗚呼、むくわれない。
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