バイオハザード 最狂の転生者

□黄道特急事件
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レベッカside

「衛生兵!」

誰かが叫んでいる。だから衛生兵じゃないっつーの。


呟きながら、レベッカ・チェンバースは走る。
彼女たちラクーン市警特殊部隊S.T.A.R.S.のブラヴォーチームは、アークレイ山中で多発していた猟奇殺人事件の調査に、市警のヘリで向かっていた。

嵐の夜だった。ヘリで飛ぶには、確かに条件が悪かった。が、それ以上に彼女たちはついていなかったのだろう。ヘリは突然バランスを失い、山中に不時着することとなったのだ。

「衛生兵、こっちこっち」


ニヤニヤしながら屈強な大男が手招きする。エドワード・デューイ――同じブラヴォーチームの先輩だ。

駆けつけたレベッカが訂正した。

「私はRS(リア・セキュリティ)です」

RS(リア・セキュリティ)は負傷者の救護も役目だが、兵士としては後方を警戒し、本部警護や狙撃もその役目とする。衛生兵が軍医や看護師などの医療に関する業務だけを行うのに対し、より積極的に戦闘に参加するパートとなる。そしてレベッカはその事にこだわりを持っていた。


「レベッカちゃん、俺の右腕がないよ」

「身体の後ろに回しているそれが、あなたの腕です。」


真面目の顔でレベッカは答えた。熊と対等に戦いそうな男たちの中で、小さなレベッカはまるで軍隊に迷い込んだ小学生のようだ。

「エドワード、新入りをからかっている場合じゃないぞ」

隊長に叱られ、エドワードは肩をすくめた。彼もレベッカと同じRSだった。

「レベッカ、報告だ」

エンリコ・マリーニ、ブラヴォーチーム隊長が、雨音に負けじと声を張り上げる。


「全員無事です」

レベッカは答える、奇跡だった。嵐の夜に、バランスを失ったヘリが、空中で分解をすることもなく、高い樹にぶつかることもなく、谷底に叩きつけられることもなく、見事に着陸したのだ。斜めになったヘリから降りてきた隊員たちは、しかしキャンプにやってきたボーイスカウト以上にリラックスしているようだった。

「さあ、みんな、良く聞け」

五人の隊員を見回して、隊長のエンリコは言った。

「優秀な市警のパイロットのおかげで我々は無事に着陸できたが、夜の山を舐めるな。ましてこの雨だ。一つ間違えると全員遭難もあり得る」


様々なところから集められた猛者が、親の説教を聞く小学生のような真剣な顔で隊長のを見ていた。エンリコ隊長は部下たちの信頼も篤い。彼のもとで幾度も修羅場をくぐり抜けてきた隊員たちは、本当に子供も同然なのだ。

「落下地点はR区域。殺人事件及びその噂はここから南西にある洋館を中心に広がっている。本来ならヘリで上空から捜索する予定だったが、それはもう叶わない。ブラヴォー小隊全員で捜索を開始する」

そこまで言うと、エンリコ隊長は停まっているヘリコプターへと向かって叫んだ。

「ドゥーリー!連絡が途絶えれば、すぐに後続のチームが送られてくるだろう。君はそれまで、ここで待っていてくれ」


ちらりと腕時計を見た。

「二時間後に、ここに戻ってくる。全員縦隊で出発!」

こうしてS.T.A.R.S.ブラヴォーチームは夜の森へと踏みだしていった。闇は深く、冷たい雨は責め苦のように降り続いていた。だがS.T.A.R.S.の精鋭はそんなこと、靴裏のガムほどにも気にしていない。こんな捜索など彼らにとっては「楽な仕事」のはずだった。もちろん、彼らの、そして彼女の不幸がこの時始まったことなど誰も知らなかった。

レベッカside終了
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