笑い話にもならない

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「検査した結果、記憶喪失の可能性があります」

医師の言葉に診察室に重苦しい空気が満ちる、自分と自分に関わっていた事全て忘れてしまったらしい。いつ記憶が戻るのかと聞けばすぐに戻る場合もあれば一生戻らない事もあるという、この世界の誰もが登録を義務付けられている人体データによる行方不明者捜索システムで探してもこの子は該当されなかったことも知らされ、一抹の希望をもっていた全員が目に不安の色が浮かんでいる

「…僕を探している人いないの?」
「っそんなことないわよ、絶対会わせてあげるからね」


子供の身体を抱き寄せそっと頭を撫でる、行方不明者捜索システムにかからなかった時点で既に答えはでていた、この子は恐らく『間引き』されたのだ。このままでは第00地区、人間とゴミが一緒くたにされるスラム街に落とされるに間違いない、
助けた子供は助からない、
「私がこの子を保護します。育てます、だから連れて帰っていいですか?」


辛くて、悲しくて、どうすればいいのかわからなくて気付けば保護者になるといっていた。
周りは皆口をぽかんと開けていたが唯一エルはふるふると震えていた


「ダメだっ俺の子供を産む前に子持ちになるなんて許せな ぐふっ」

「エルの子供を孕むきもそういう関係になる気もありませんから」


エルの顎をアイリスの右ストレートが捉える、無言で悶絶しているところを見ると恐らく舌を噛んだのだろう。子供からは見えなかったようで?マークを浮かべる子供に安心させるように「一緒に君を探してくれる人を見つけよう」と満面の笑みを向ける。


「本当にいいの?大丈夫?迷惑じゃない?」

「子供がそんな事心配しなくてもいいの、安心して私のとこに来なさい?」



俺のアイリスが俺のアイリスがぁあああ
と床で転がるエルは放置して子供の頭をそっと撫でる、そこで医者からの視線を感じそちらをみる

「どうしたんですか」
「お嬢さんみたいな子は今どき珍しいと思ってね」
「だろ?なんてったって俺が惚れてる女だからなっ」


復活したエルがにかりと笑いアイリスを抱き寄せる、瞬間爪先を踏み抜きまたしても床に崩れる
エルをそのまま放置し
子供にひらりと手を振り必要な手続きをするために医者と共に病室から出ていく


「あの、お兄さんあの人は、」
「俺の嫁だからな、手をだすなよ」

きっと少年が聞きたかったことはそれではなかったのだろう、
それでもエルの人懐っこい笑みにつられて少年も笑う、そのつもりだった
「っ」

突然脳裏に写った映像に少年は言葉を失い、エルは固まってしまった少年に首を傾げる

「おい?」
「……っぁ」
「たっだいまー!お財布忘れて、っ!どうしたの!?」

「≪≫が、」
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