八犬伝
□幸せの午後
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里見家の犬神「八房」
飼い主(里見)同様性格は謎。
意思疎通も微妙…
でも毛並みは良さそう(俺談)
なので……
信乃は八房に向かって手を出した。
「八房、お手!!」
いつも通り、八房は無反応だった。
しかし…
「ぎゃああああああ!!」
信乃、悲痛の叫び。
そう、
題して…
八房(犬神)と仲良くなってもふもふしようキャンペーン!!
「朝っぱらから喧しいな」
里見は紅茶を飲みながら新聞を読み、優雅に呟いた。
「コレ、しーちゃんの声じゃないの…」
要が外を見てみると、中庭では八房が信乃を下敷きにしてグリグリとジャれていた。
「ギブ!!…ギブギブッ!!」
「ーーーーわあ。
なんか2人とも、凄く仲良さげだねぇ♡
八房ってば、僕の時は完全無視だったクセに…」
「あれを見て本気でそう思うなら医者を呼んだ方がいいぞ。要」
里見の言った通り、この時八房は怒っていた。
だから信乃はボロボロにされてしまったのだ。
「本っ当に躾のなってねぇバカ犬だな。
八房!!お前お手もできねぇのかよ!!これっくらい壮介だってできんだからな!!」
そして信乃は四白になっている壮介に向かって手を出す。
「な!!壮介!!ホラ、お手!!」
「…何か今、屈辱的なことを云われた気がするんですけど、気のせいですかネ?
大体、犬神の八房に“お手”だなんて、何て失礼なことを……」
「ゴチャゴチャうるせぇ!!
ノミ取りしてやんねぇぞ!!」
「や、この時期はホント大変なんで……」
壮介はコロっと態度を変え、素直に信乃にお手をする。
「………………」
それを見ていた八房の後ろ姿がとても呆れているオーラを出していたことは、恐らく誰も知らない。
要は感じた。
壮介くんを見てると…
「……僕は時々本当に幸せを実感するよー。
アレ(壮介)より獣付きの僕らの方がまだ人扱いされてるもんネー」
「そういや、信乃が犬小屋が欲しいと云っていたな」
莉芳は涼しそうな顔で言ったが、今のは大きな爆弾発言だ。
「…………、
…しーちゃんの愛情って、ちょっと斜めっぽいのかな…?」
「逆だろう?
鉄球を真上から落とすのと同じだ」
「愛情じゃなくて、ソレただの暴力だよね!?」
全く、莉芳って分かり辛いよね。
八房みたいに……。
「そういえば八房って相当人嫌いのイメージあるけど、壮介くんにはそうでもないよね。
やっぱり犬同士何か通じるものがあるの?」
「ーーーーさて?
私は犬ではないから判りかねる」
「えーーーー?」
自分の家の犬神なのに……
「壮介くんも浮世離れしたとこあるから何か………」
その時、ドンドンと信乃がドアを叩いた。
「里見!!里見!!
ちょっと来い!!」
そして信乃は里見の腕を両手で掴み、ぐいぐいと中庭へ連れて行った。
「さっきからやかましい!
一体何なんだ?」
「いいからちょっと!!」
里見の隣に信乃が立つと、信乃の背丈は里見の胸あたりまでしかない。
小さい体でよくちょこまかと…。
里見がそんなことを考えながら付いていくと、信乃は里見と一緒に八房の前に立った。
里見を後ろに立たせ、手を持ち上げる。
そして、ニイッと笑った。
「八房!! お手!!」
今度は信乃の期待通り、八房は素直にお手をした。
しかし……
「….………あ。」
里見の手の上にお手をした八房の力が強すぎて、里見の手が地面に叩きつけられるのと同時に、信乃と里見も一緒に地面に倒れこんでしまった。
要はゆっくりと紅茶をすすり、呟いた。
「……いやぁ。
やっぱりしーちゃんはすごいねぇ。
莉芳の顔に土つける人間なんて初めて見たよ」
そして、カラになったカップを机に戻す。
「でも、莉芳…
結構楽しそうな顔してるよ?」
「…信乃。お前は……」
「や!!もうキャンペーン終了!!
ちょっと、大失敗!!重量的に」
屋敷には要がいて、中庭には壮介と村雨と八房、そして、里見がいる。
この時間が、ずっとずっと
続いてほしい。
強く願えば、
それは、必ず叶う……。
***fin……