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□真夏の蜃気楼
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屋上からは部活に勤しむ生徒たちが見えた。
体育館の方に耳を傾けると昔よく聞いた竹刀を振る音が聞こえたので、今日は剣道部が練習しているのだろう。
そこまで考えてまた土方を探している自分に気が付いた。
「はは…何が心を落ち着かせる、だ。未練たらたらじゃねぇか」

フェンスに寄りかかりながら遠くに視線をやるとビルがゆらゆらと浮かんで見えた。
「蜃気楼、か…俺のこの気持ちも幻なら良かったのになぁ」

「幻な訳ねぇだろ」

(え…?)
そこに居る筈のない人物の声が聞こえ、俺はゆっくりと後ろを振り返った。

でもそこに居るのはやっぱりそいつで。
「な…んでお前…」
「教室から出てくお前が見えたから追いかけてきた」
「いつから居たんだよ…」
「最初から」
「ぬ…盗み聞きかよ…趣味悪ぃ…」
「悪かった」
自分と同じくらい意地っ張りな土方から素直に発せられた詫びの言葉に少しの気持ち悪さを覚えたが、その真剣な顔つきはとてもからかえる様な雰囲気ではなかった。

「悪かった…銀時」
「は…」
突然下の名前で自分のことを呼ぶなんて。
そしてお前は一体何に対して謝っているんだ…?

「あれからずっと考えてたんだ、お前のこと。」
「っ…」
「最初はびっくりした。お前のことは友達というか…悪友だと思っていたし、まさかお前がそんなことを思っていたとは露程にも思わなくて…」
もう良い。もう良いよ土方。
「あぁ…それが普通だ。お前は正しいよ」

忘れてくれて構わないんだ。いや、どうか忘れてくれ。
「そうじゃない!!…ちゃんと最後まで聞けって」
「…?」
「俺にはそっちの気はない。試しに近藤さんに同じ台詞を言われたらどう思うか想像してみたら…やっぱり気持ち悪かった」
おいおいゴリラとんだとばっちりじゃねぇか…
「でもお前に好きだって言われたときは…嫌じゃなかったんだ…」
「…何言ってんだお前」
「あぁ俺もどうかしてると思うぜ。でもそれが事実だ。あれから桂たちと笑い合ってるお前を見ていて心底嫌気が差した」
どうやら俺は嫉妬深いらしいぜ?
そう笑う土方の顔がとても男臭くて、顔に熱が集まってくるのが分かった。
「そ…んな、お前…沖田さんは…?」
「だからあいつとは本当になんでもないんだって。それよりお前こそあいつらとは何もないんだろうな?」
「あいつら?」
「桂と高杉だ!あいつら妙にお前に触るし…特に高杉、あいつは危ねぇ」
「…ほんとに何言ってんだお前…」
半ば呆れながら言うと土方は優しく笑った。


「好きだ、銀時」


その瞬間、風が凪いだ気がした。

「…遅ぇんだよ、バカ土方」
「はは…悪い」

「なぁ知ってるか?蜃気楼が見せる幻だって実体はあるんだぞ」
「…そっか」


青空の下、入道雲だけが俺たちを見ていた。




end
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