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□真夏の蜃気楼
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土方は何かと有名だった。

成績優秀で顔はまぁ…女子に人気だ。
だけど本人はあまり自分の容姿に関心がないらしく、女子から騒がれているという自覚もない。
剣道部という点も硬派だとかでポイントが高い…らしい。
そして何より黒髪のサラサラストレート。俺、いや全男子の敵と言っても過言ではないだろう。

そんな土方と同じクラスになったのは2年生の時。
いちご牛乳片手に週刊誌を読んでいた俺に話し掛けてきたのは以外にも土方の方だった。
俺の髪が珍しかったのかその視線は銀髪に注がれていたので、何か尋ねられる前に地毛だと話せば
「そうか…綺麗だな」
「………いや…男が男に綺麗とか言われても…」
「それもそうだな」

――――変な奴。
でも何故か悪い気はしなかった。


それから少しずつ土方と話をするようになって、ケンカもよくするけど基本的にはそりが合った。
傍から見れば俺たちは親友同士にでも見えただろう。
俺自身もそうだと疑っていなかったのだから。

***

「土方って彼女いねーのかな」
クラスメイト達の会話に心臓がドキリとした。
「いねーんじゃねぇの?あいつ告られても全部断ってるらしいじゃん」
「でも沖田さんとは仲良いよな?」
「坂田何か知ってる?」
突然話を振られて一瞬反応が遅れてしまった。
「さぁ…あんま聞かねぇなぁ」

―――土方に彼女…


心臓の鼓動がいつまでもうるさく響いていた。



「なぁお前彼女とかつくんないの?」
「あ?何だ急に」
部活に入っていない俺は土方の部活のない日だけ一緒に下校していた。
「…特に今はつくる予定はねぇ」
「今は、ね」
「何だよニヤニヤしやがって」
「例えばぁ沖田さんとかどーなのよ?」
「っ…!」

…は?

「な…何でいきなりあいつが出てくんだよ」

…え?何まじなの??

「あいつとは付き合いが長ぇだけで…そんなんじゃねぇ」

夕日に照らされた土方の顔はほんのり朱に染まっていて、いつになく饒舌に喋る土方にそれは夕日のせいだけではないのだと確信してしまった。

そして同時に決して気付きたくはなかった、気付いてはいけなかったことにも俺は気付いてしまった。

「そういうお前はどうなんだよ」
「え?俺?」
「猿飛とか留学生の…何だっけ?」
「神楽な」

それからも話は弾んでいたが、正直俺は何を話したのか全く覚えてはいなかった。
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