main

□逢坂関
1ページ/4ページ


───今日も僕は、君に会いに行く

『 逢坂関 』


ガラガラガラ
「お早うございます銀さ…」
ここ、万事屋の従業員である少年は目の前で繰り広げられている光景に朝から固まってしまった。
何故なら…
「おう、新八。相変わらず早ぇな」
いつもならまだ夢の国をさ迷っているであろう万事屋の女主人が既に起床しているばかりか、優雅に朝食までとっていたからだ。
「おい、お前今失礼なこと考えてるだろ」
「えぇ?!そっ…そんなことないですよ!!」
ずばり心中を当てられて動揺したのか声が裏返ってしまった。
「ま、別にイイケド。飯はもう食ってきたのか?」
「え?まだですけど…」
「そか。じゃぁ座って待ってろよ。今飯装ってきてやるからよ」
そう言うや否や銀時は鼻唄混じりで台所へと姿を消した。
普段の銀時らしからぬ行動に若干の気持ち悪さを覚えながらも、少年は卵かけご飯を貪り食っている少女の隣に腰掛けた。

「…ねぇ神楽ちゃん。銀さんどうしちゃったの?」
「…見て分からないアルか?」
心底分からないという顔をしていると「これだから新八はいつまで経っても新八ネ」と半ば呆れられてしまった。

「銀ちゃんは恋してるアル」


少年はまたもや固まってしまったがすぐに意識を取り戻し、
「えっ?それってどういう…
「新八ー。ほらよ」
少年の声は台所から戻ってきた銀時の声によって遮られ、少女の爆弾発言の真意を遂に知ることは出来なかった。



「じゃぁ俺仕事探しにいってくるから」
「は…ぁ…くれぐれもパチンコ行ったりしないでくださいね」
「んなことするわけねーだろ。お前俺のこと何だと思ってたんだ」
そうぶつぶつ言いながらいつものブーツを履き、いってきまーすと出て行ってしまった。

やはりおかしい。
あの銀時が自主的に仕事を探しに行くなんて…
「さぁてワタシも定春の散歩に行くアル」
「あ、神楽ちゃん!さっきの…銀さんがどうのって、あれどういう意味なの?」
「だからそのままの意味アル」
定春行くよぉぉと叫びながら少女も行ってしまい、万事屋には未だ混乱したままの少年だけが取り残された。

「恋って…え?まさか銀さんが?」
えぇぇぇぇぇえぇえぇぇ!!!!!?
自分以外誰も居ない万事屋に少年の驚愕の声が響いたのは言うまでもない。


***


一方銀時はブラブラと歌舞伎町を歩いていた。
何か仕事はないかとよく依頼してくれる大工のじじいの所など回ってみたが、特に今は必要ないと言われた。

「うーん…今月もピンチだし家賃も溜まってるんだけどなぁ…」
取り合えず銀時は近くの甘味処で一息着く事にした。



「旦那ぁー」
甘味処の店先で通行人を眺めながら団子を食べていると、栗毛色の可愛らしい少年に声をかけられた。
「随分旨そうなもの食べてますねィ。俺にも一口くだせぇ」
「冗談、誰がおめぇなんかに銀さんの貴重な糖分を渡すもんか。手前ぇで買いな」
そう言うとこりゃ手厳しいやなどと言い少年は銀時の隣に座り団子を一つ注文した。

「おいおい仕事中じゃねーのかよ総一郎君」
「総悟です。人間たまには休息も必要ってことでさぁ」
「たまには、な」
「それを旦那が言いやすか」
「……」
どうやら相手の方が一枚上手だったらしい。

「そういや旦那、ご存知です?」
そう耳打ちされ何の事だと耳を凝らす。
「最近変なんでさぁ」
「何が」
「土方さんが」
「はぁ?」
一体どう変だと言うのだろうか。
「俺の見立てじゃ土方さん、誰かに懸想してやすねィ」
ぶっ
思わず飲んでいた茶を吹いてしまった。
「へ…へぇ…あの土方くんが…さぞかし別嬪さんなんだろうねぇ」
「えぇ、かなりの」
にやりと笑う少年は見た目に似合わずその口許に腹黒さを滲ませていた。

沖田君の不意打ち過ぎる発言のせいで未だ整わない呼吸を茶を飲んで何とか落ち着かせていると遠くから何やら騒がしい音がした。

「じゃぁ俺はそろそろ行きやすねィ」
「え、沖田君?」
振り返るとその少年はもう数メートル先に居て、空になった団子の皿の脇に二人分の代金が添えられていた。
「…あいつも中々のイケメンだな」
「おい万事屋」
そう一人ごちていると後ろからまたしても声をかけられた。
振り向かなくても分かる。
どこかイラついた様子のこの心地の良いテノールの声の持ち主は正に自分が今絶賛片想い中の相手、真選組副長土方十四郎だ。

「さっき総悟のやつと一緒に居ただろう。あいつどこ行きやがった」
「あー…沖田クン?あいつならあっちの方に行ったぜ」
「…そうか」
「……」
─────俺の見立てじゃ土方さん、誰かに懸想してやすねィ…
先程の沖田の声が木霊する。
「万事屋?」
「えっ?何?」
「いや…テメーがさっきから俺の顔をジロジロ見やがるから…何か付いてるか?」
「はぁ?自意識過剰なんじゃねぇの?誰もおめーの顔なんて見ねぇよ」
「手ン前ェ…」
いつもの憎まれ口をたたいて何とか誤魔化すと土方が青筋を立てながら愛刀に手をかけたのでこりゃ不味いと甘味処を後にした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ