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□紫陽花に
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────雨は嫌いだ。
ジメジメするし、雨に濡れた制服は何だか臭いし、慣れないバスに乗らないといけないし、何よりひどい天パが更にひどくなる。
良い事なんて一つも無い。

「はぁ…早く晴れねぇかなぁ…」



紫陽花に

流るる露を眺めては 久しき青空恋しく思ふ────


***


「銀ちゃーーん!!今から皆でカラオケ行くアル!銀ちゃんも来るヨロシ!」

何とも聞き慣れない語尾を付けて話しかけてきた留学生の神楽は今年初めて同じクラスになったのだが、何故だか妙に懐かれている。

「あー…今日はパス」

「えーー!?新八も姉御も来るアルよ?」

「…悪ぃな。今日はマジで無理なんだって。また今度誘ってくれよ。」

神楽達には悪いが今日は本当に気が進まない。
こんな日はとっとと家に帰ってジャンプを読むに限る。
銀時は神楽に別れを告げると傘を差し校舎を出た。

学校から少し歩くとバス停がある。
住宅街にある小さなバス停なので屋根など無い。
銀時は傘越しに雨に打たれながらバスを待っていた。

ピチャン、ピチャン、
誰かがこちらに向かって歩いてくる音がした。
同じ学校の奴だろうか。銀時は徐に傘を傾けその対象を見た。

「…っ!」
────土方十四郎。
直接話した事は無いが、銀時はその人物を良く知っていた。否、うちの学校の生徒で知らぬ者は居ないだろう。
頭脳明晰、眉目秀麗、おまけに風紀部の副委員長で剣道部の副主将だ。
まさに少女マンガに出てくるような非の打ちどころの無い王子様。(もっとも王子という甘い面構えではないが…)
当然そんな好物件を女子高生達が放っておくわけもなく、何組の誰それが告白しただの何だのといった噂話はよく耳にする。
しかし当の本人は恋愛に興味が無いのか何なのか、浮ついた話は全くといって良いほど聞かない。
まぁでも自分とは何の接点も無いし関係ないか───そう思っていた銀時だったが今、思いもよらず隣同士でバスを待つという状況に置かれている。

何だか空気が重く感じるのは気のせいであろうか。…気のせいであってくれ。


一人グルグルと考えていると、とうとうバスが来た。
銀時は傘をたたんでバスに乗り込み、土方もその後に次いだ。
この天気のせいか帰宅ラッシュにはまだ早いものの多くの人がバスに乗っている。
バスに揺られていく内に幸運にも席に座ることが出来たので、家の最寄りの停留所まで少し眠ることにした。
バス特有の揺れは何とも眠気を誘うものである。銀時はすぐに夢の世界へと誘われた───。
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