クローバー (あつみな)
□敦子の秘密
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00. プロローグ
「じゃあ、またね高橋さん!」
「なんだよ、今日も帰らないのか?」
わたしは荷物を持って教室から出ようとしている前田に近づく。
毎日、まとわりつくように一緒に帰っていたのに、前田はここ最近一緒に帰らない。
いつも放課後、そそくさと荷物をまとめてどこかへ行ってしまう。
「うん、当分一緒に帰れない.....かも」
「なんでだよ」
「な、なんでって。えーっと.....そのう」
前田は言いにくそうに、困ったように視線をおよがす。
「なんだよ、言えないのかよ」
「.....えっと」
「おい、前田。お前、誰かにいじめられてるんじゃないだろうな?放課後呼び出されてパシリにされてるとかじゃないだろな」
「ち、違う違う!」
前田は慌てて手を振る。
「ほんとか?もしそうなら言えよ。一発ぶん殴ってやるから」
「へへ、なーに?心配してくれてるの、高橋さん!?」
前田は嬉しそうに笑うと、わたしに抱きついてくる。
「.....あっ!やばっ.....!」
普段なら、そのままゴロゴロ甘えてくるくせに、前田は慌ててわたしからパッと離れる。
「つ、ついクセで....いかんいかん」
前田はブツブツ何かつぶやいている。
わたしは、なんとなく面白くなくて、ブスッとした顔する。
なんだよ。
離れろとか、何にも言ってないじゃんか。
「と、とにかく!放課後は一緒に当分帰れないから。でもお昼は一緒に食べようね!」
「.....お前、朝も最近わたしより遅刻ギリギリで学校くるじゃんか。登校の時も一緒にならねぇし。マジ、どうしたんだよ?」
わたしが詰め寄ると、前田はジリジリと壁際に慌てて後退する。
「.....た、」
「た?」
「た、高橋さんにだけは!ぜっっったい!言えない!!」
前田は真っ赤な顔で叫ぶと、わたしをすり抜けて教室を飛び出す。
「あ!おい、コラ!!」
わたしは慌てて教室のドアから廊下を見ると、前田は脱兎のごとく、遠くへ走って行ってしまっていた。
「...........」
わたしがブスッとした顔で廊下から教室の中に入ると、優子達が可笑しそうに笑っていた。
「はは、みなみ。また今日も前田にフラれたのか」
「るっせーな!」
「おーおー、みなみちゃん荒れてまちゅねー」
「ぶん殴るぞ、トモ!!」
「まぁまぁ、みなみ。陽菜達が一緒に帰ってあげるから、そうスネないのー」
「す、スネてねぇよ!」
わたしが叫ぶと、笑う陽菜の肩越しに、峯岸の席に集まった柏木達が苦笑いしてるのが目に入った。
「コラ、お前ら。前田が放課後何やってんだか、知ってんだな?」
わたしが峯岸の席に近づくと、椅子に座った柏木は困ったようにわたしを見上げる。
「うーん、知ってるんだけどさー」
「なんだよ、アイツ何やってんだよ」
「敦子に、口止めされてるんだよねー.....」
渡辺が苦笑いする。
「そうそ。特に、高橋さんにはね」
「な、なんでだよ!」
「怒んないでよー、高橋さん!ウチらだって敦子に口止めされて仕方なくなんだからー。そうだ、敦子不足で寂しいんならウチらで我慢して!」
峯岸は笑うと、椅子を蹴立てて、わたしに抱きついてくる。
「お、お、おい!!」
「あー!ずるーい、みぃちゃん!わたしもー!」
渡辺まで抱きついてくる。
「高橋さん.....寂しいねぇ。泣いて、いいんだよ」
柏木はわざとらしく泣き真似をしながら、抱きつかれてバタバタ暴れているわたしの頭を撫でてくる。
「か、か、か、からかうな!コラ、やめろー!」
柏木達に、もみくちゃにされながら、わたしは思う。
ちっくしょー、前田のヤツ。
隠し事なんてしやがって!
わたしは、なぜだか。
とてつもなく。
イラついていた。