DAYS (あつみな)

□センセ
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「はい、2人とも。ハッピーバレンタイーン」




2月14日。
聖・バレンタインデイ。
いつもの通学路も今日ばかりはちょっと特別に見える。


わたし大島優子と、隣にいる篠田麻里子は朝から頬が緩みっぱなしだった。
わたし達のような状態こそ、「ニヤニヤしている」と表現するのだろう。
なんでニヤニヤしてるのって?
それはね。
わたし達の目の前にニコニコと立っている女神様のおかげなのだ。


「今年はね。優ちゃんはクッキー。麻里ちゃんはチョコケーキにしたんだよ」


そう言って、女神様こと『小嶋陽菜』は微笑んだ。
あぁ、なんて神々しい。
彼女は本当に天界から地上に舞い降りた女神なんじゃないだろうか。
本気でそう思えてしまうほど、陽菜は美しい。


「うふふ、ニャロ。やっぱり優子よりわたしの方が好きだったんだね」

「ムム?それ、どーいう意味だよぉ麻里ちゃん」


ジロリと隣に立つスラリと背の高い麻里ちゃんを見上げると。
麻里ちゃんは『フフン』と鼻で笑いながらわたしを見下ろした。


「だって見なよ、この箱の大きさ。優子のと比べてこーんなに大きいよ」

そう言って麻里ちゃんは陽菜から貰った箱を誇らしげに掲げた。

「麻里ちゃんのブワーカ!どデカ民!ケーキが入ってるんだから当たり前じゃん。愛は大きさよりも量!わたしのなんてね、陽菜の愛がたっくさん詰まってるんだから。麻里ちゃんのはひとつだけど、わたしのはひとつひとつ陽菜が愛情込めて焼いてくれたクッキーがこーんなにたくさん!」

そう言って、わたしもクッキーの袋を掲げて『フフン』と麻里ちゃんを見上げた。



「まったく。優子はお子様だなぁ」

「あー!ちょっと!なんなのそのヤレヤレって顔は!ムキー、いっつも子ども扱いするんだから!」


そう言って、わたしと麻里ちゃんはいつも通り喧嘩を始めた。
もう、わたし達の関係は察して頂けただろうか。

そう。

わたし達3人は子どもの頃からの幼馴染の高校生という関係性の他に、もうひとつ関係がある。

わたしと麻里ちゃんは。


『小嶋陽菜』に恋をしているんだ。






「さぁ、そろそろ学校に行こうよ優ちゃんと麻里ちゃん。陽菜、クラスのみんなにも友チョコ作ってきたから配らないと」

いつまでもウーッと唸りあっているわたしと麻里ちゃんを見て陽菜は困ったように笑うと、通学カバンとは別のカバンを掲げた。

中を覗き込むと、たくさん小さな可愛らしくラッピングされたチョコが入っていた。
どれも丁寧にラッピングされているところが、凝り性の陽菜らしい。


「「....ん?」」


カバンの中を覗いていたわたしと麻里ちゃんは同時に声をあげた。
友チョコの中に紛れて。
明らかに、わたしと麻里ちゃんが貰ったような『特別っぽい』ラッピングがされた箱があったからだ。


「ニャロ、これなあに?」

麻里ちゃんがその箱を指差すと。
陽菜は、少しだけ頬をピンク色に染めて小さな声で言った。

「え?....あ、ブラウニー」

そう言う陽菜を見た後、わたしと麻里ちゃんは顔を見合わせた。
明らか、陽菜の様子が変だ。
陽菜、ソワソワしてるし。
....どことなく、嬉しそうだし。


「さ、さぁ。行こうよ」

陽菜はそう言うと恥ずかしそうにクルリと踵を返した。
陽菜の動きに少し遅れて長く綺麗な栗色の髪がフワリと揺れる。


そのまま学校へ歩いて行く陽菜の背中を見つめながら。
多分、わたしと麻里ちゃんは同じことを考えていたと思う。





『ブラウニー野郎は誰だ?』




side 優子





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