モブ生活始めました。
□名誉班長4
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いーちゃんに部屋の鍵を渡された私は、常にウッキウキしながらクリーニング業者と掃除に励んだ。
鍵を渡されたくらいで、と思うかもしれないけど、だってなんかいーちゃんのサービスが昨日からすごいんだもん!!そりゃウキウキウォッチング歌いたくなるくらい舞い上がっちゃうよね!
時間も忘れて掃除に取りかかっていたら、いつの間にかお昼の時間。業者さんたちは休憩に入ったんだけど、私はお迎えがくるんで、と業者さんたちからの誘いを断り掃除を続けた。
ふっふ〜ん♪だっていーちゃんが迎えに来てくれるんだも〜ん♪一緒にご飯食べるんだも〜ん♪あー!すごくチビ太さんに自慢したい!!後でラインしとこう、そうしよう。
一人で鼻歌なんて歌いながら掃除を続ければ、いつの間にか業者さんの休憩も終わったみたいで、パートの田中さんが私に話しかけてきた。
ちなみに田中さんはクリーニング業者で30年働くベテランパート職員、58歳。気さくで話上手なおばちゃんだ。
「凛ちゃんご飯まだなんでしょ?休憩してきたら?」
一人作業を続けていた私を心配して気を使ってくれる田中さん。
『まだ平気ですよー!それにお昼は約束してて。迎えに来てくれるんです〜』
あまりの嬉しさに、思わず幸せオーラを出しすぎて言ってしまったからか、田中さんが盛大な勘違いをしてしまう。
「あらぁ、そうだったの!やだわ、おばちゃん気づかなくて。そうよねぇ、凛ちゃんみたいな美人さんに彼氏がいないわけないわよねぇ〜!あ、もしかしてお迎えって彼かしら?」
現在進行形で勘違い中の田中さんの視線の先には、確かに待ちに待ったお迎えの彼の姿が。
「……ごめん、遅くなって。」
勿論田中さんの勘違いなど知らないいーちゃんは、いつもどおり私に話しかけてきた。
『全然!いーちゃんのことばっか考えてたらいつの間にか時間過ぎてて…』と勘違い中の田中さんがいるにも関わらず、明らかに肯定する内容の言葉を口にしてしまった私。……し、し、しまったぁぁぁぁ!!
そっと隣を見れば、私空気読めますよ、とばかりにウインクを飛ばしてニヤニヤと手を振る田中さんがいた。
いーちゃんはいーちゃんでまた発作が起きたのか、壁に頭を何度も打ち付けている。……いーちゃんンンン!?ほんとに大丈夫なの!?
なんとも居た堪れない気持ちになり、私は壁に頭を打ち付け続けるいーちゃんの手を取ってその場を逃げるように出てきた。
……なんてこった。いーちゃんに申し訳ないことしたなぁ。
『…ねぇ、いーちゃん。ちょっとクリーニング業者の人に勘違いさせちゃたみたいなの。……その、いーちゃんと私が、付き合ってる?みたいな?あっ、あのわざとじゃないんだよ!?決していーちゃんの評判を下げようなんてこと微塵も思ってなくてね!?あまりに嬉しくてお昼約束してることをポロッと言っちゃったらなんか彼氏と勘違いされちゃって…』と、必死で言い訳をする。
嫌われたらどうしよう、なんとかこの誤解をとかないと!といーちゃんの様子を伺えば、彼は私が掴んだ手を強く握り返して、マスク越しにこう言ったのだ。
「……べつに。勘違いされたままでいいんじゃない。」
思わず立ちどまり、いーちゃんを見つめる。
なに。と横目で私を見たいーちゃんの耳が真っ赤だ。………たぶん私は顔中真っ赤だろうけど。
「……飯、食べないの。」
繋いだ手を今度はいーちゃんが引っ張る。
この火照った顔がおさまらないと、いーちゃんの隣歩けないよ!
『……終身名誉班長の彼女なんて荷が重いよいーちゃん!』
「……アカツカ商社美人OLの彼氏なんて荷が重いですわー。」
『え!いーちゃん美人って言ってくれた!?』
「……気のせいじゃない。」
『言った!』
「言ってない。」
そんな押し問答をしながら手を繋いで食堂に現れた私達を工場の職員が見て、今度は工場中で勘違いされてしまったのは言うまでもない。