モブ生活始めました。
□名誉班長2
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それから私は大忙し。
イヤミさんに教えてもらった寮は、ほんっとうに汚かった。
大部屋で生活している人たちは皆、共同風呂、共同トイレ、共同食堂を利用してるらしいんだけど、その共同スペースさえ汚い。ここはすべてクリーニング業者に任せた。私は一刻も早く終身名誉班長の個室に向かいたい。……だって仕事を理由にいーちゃんの生活空間を垣間見るチャンスだよ!?あとパーカーを見つけたらこっそり匂いを嗅ぎたいし!
しかしイヤミさんに連れてこられたそこは、やはり人が住むような場所ではなかった。
「ここが終身名誉班長の部屋ザンス。班長の部屋は特別にトイレ、シャワー室、キッチンが完備されてるザンス」
『ふざけんなよ貴様ぁぁぁぁぁぁ!いーちゃんをこんなゴミ溜めで生活させやがってぇぇぇぇぇぇ!その歯へし折るぞ!?』と、怒鳴りそうになるのをなんとか堪える。……仕事中だ凛。我慢しろぉぉぉぉぉぉ!
とにかくいーちゃんが仕事を終えるまでに私もこの部屋を綺麗にしなくては。
ハウスクリーニングの業者さんに指示を出しながら、私も部屋の掃除に乗り出す。
待っててね、いーちゃん!!絶対いーちゃんに癒しの空間を提供してみせるから!
午後5時を回ってハウスクリーニング業者は業務時間が過ぎたため帰っていった。
とりあえず共同スペースの清掃と布団の交換は済んだらしい。残りはまた明日から。
いーちゃんの部屋も業者さんの手伝いもあり、見違えるように綺麗になった。あとは夕飯の準備だ。一旦マンションに戻って猫に餌をあげてこないと。
呼んでおいたタクシーでマンションに戻り、数日分の生活用品をボストンバッグにつめる。……え、なんで生活用品が必要かって?
……フフフ、実は部長に「成瀬くんは今週中そっちで納品の手伝いをしてきてくれ」と言われ、いーちゃんの隣の部屋を借りることになったのだ!(勿論清掃済み)
これでずっといーちゃんといられる〜♡へへへ、寝顔絶対撮ってやるぜ。
路地裏の猫たちに餌を与えて、スーパーで買い物を済ませる。
かなりの大荷物をタクシーに積めて、いーちゃんの待つブラック工場へ戻る。
思いの外時間がかかってしまい、工場に着いたのは8時過ぎ。しかし寮にはまだ誰も戻ってはいなかった。……終業時間何時なんだろう。
とにかく私はいーちゃんの部屋で夕飯の準備をする。……ヤバい、なんか楽しいぞこれ。早くいーちゃん帰って来ないかなぁ……。
部屋でひたすらニヤニヤしながらいーちゃんを待った。
待ち人が帰って来たのは日付が変わってから。
『いーちゃんおかえりなさい!お仕事お疲れ様〜、ご飯できてるよ♡それともお風呂先にする?あ、その前におかえりのハグ「…ただいま。飯、食べる。」…りょーかいです!』
ぐすん、ハグ無視されたけどめげないよ!だっていーちゃんからただいまって言ってもらえたもの!グッジョブ私!!
料理を暖め直して用意していると、いーちゃんが部屋中をキョロキョロと見ながら話し出す。「…部屋、掃除したの。」とか「猫の餌は?」とか。
私はそれに答えながらテーブルに料理を並べる。
『じゃあ食べよっか!』といつものように頂きますをすれば、いーちゃんが疲れた顔で私を不思議そうに見てきた。
「…そういや、なんでまだここにいるの。」と尋ねるいーちゃん。あ、そうだった、言ってなかった。
『実はいーちゃんがここにいる間、私も隣の部屋で一緒に生活することになったの。あ、私の部屋、シャワー室ないからいーちゃん入ったあと貸してね』
いーちゃんは箸を持ったまま固まっていた。……もしもーし、いーちゃん?え、目開いたまま寝てる?
数秒後、突然テーブルに頭を打ち付けたいーちゃん。ちょ、最近頭ぶつけすぎじゃない!?いーちゃん!
『あ、ちなみに私の部屋、いーちゃんの部屋からしか入り口ないらしいの。ほら、そこなんだけど……だからもうほぼ共同生活だよね!よろしくね、いーちゃん!』
てっきり拒絶されると思っていた私は、いーちゃんの言葉に耳を疑うことになる。
「……ならもういっそのこと、一緒に寝ればいいじゃん。」
………え。………え?………え!?
ま、ま、マジですかぁぁぁぁぁぁ!?
いーちゃんからまさかの添い寝のお誘いに、私は放心した。