モブ生活始めました。
□飼い猫のいない一週間
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「明日から一週間、ここに来れないから。…猫に餌、よろしく。」
突然いーちゃんから一週間家出(?)する報告を受けたのが2日前。
その時の衝撃は忘れない。
勿論私はいーちゃんに詰め寄って理由を問い詰めた。野良に戻りたいの!?私じゃ飼い主不足!?などなど、そりゃもう必死で。
でも理由は想像していたものではなくて、知り合いの仕事を住み込みで一週間手伝うことになったから。
一週間なんて長すぎる!いーちゃん不足で死んじゃう!と勿論駄々をこねてみたけど、「な、なるべく連絡するから…。」といういーちゃんのデレに、あっさりおちて納得してしまった自分が今となっては憎らしい。
あと5日だよ!?ラインだけじゃ寂しすぎる!
いーちゃんからの返事がこないか、スマホを眺めながらいつもの帰り道をとぼとぼと帰っていれば、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。おおぅ、めっちゃ見覚えあるぞ、このシチュエーション。
"〜〜〜ちゃ〜〜ん"
十四松くんだ!!とスマホから顔をあげれば、他にも遠くで叫ぶ声が聞こえるではないか。
"〜〜っ!?〜〜兄さん!?"
……ん?あれ、この声も知ってるぞ。と、振り返れば、もう間近に迫っていた犬姿の十四松くんと、それに引き摺られるトッティの姿が。
「凛ちゃん!!おひさしぶりマッスルマッスル!!ハッスルハッスル!!」
『久しぶり十四松くん!!さっそくだけど撫で撫でさせて!?いーちゃん不足で死にそうなの!』
私に癒しを頂戴!とばかりに手を広げれば、いつもの大型犬よろしく押し倒してきた十四松くん。
「いーよ!いっぱいなでて!」と頭をぐりぐり押し付けてくる十四松くんをおもいっきり撫でまわす。……あぁ至福。
「ちょっ!何してんの十四松兄さん!!殺されちゃうから!」なんて失礼なことを言ってリードを引っ張るトッティ。いや十四松くん殺したりしないし。
『いい子だねエルヴィン、はいおすわり』と言えばエルヴィン声で「ワン!」と応えてシャキッと座る十四松くん。か〜わ〜い〜い〜!
「…いやいや何見せられてんの、これ!?」
引き気味のトッティ。なんだよ、邪魔するなよトッティ。
『ねぇいーちゃん何の仕事手伝ってんの?もう私限界だよ。いーちゃん不足で死んじゃう。電話しちゃ駄目かな?』
お座りした十四松くんに話しかける。しかしその問いに答えたのはトッティだった。
「…あー、たぶん一松兄さん、電話でる余裕もないくらい働かされてると思うよ。班長だし」
『えー!?班長って何!?なんでいーちゃんが働かなきゃいけないの?いーちゃんは働かないで私を一生癒してくれればいいのに〜』
私が飼うから傍にいてほしい。
するとトッティは呆れた顔をして見せた。
「もうほんっと一松兄さんも凛さんも面倒くさいよね!」
『え、なぜ急に貶し始めたトッティ』
残念なモノを見る目を向けるトッティはこの際無視しよう。ここですべての神声を持つ十四松くんに会えた奇跡、逃すことはできんぞ、凛!
『十四松くん、いーちゃんの声真似で"…いい子で待っててね、凛。"って言ってくれる!?あと"いい子で待ってろ、凛"でエルヴィン声と兵長声もお願いします!!』
「いーよ!」と承諾してくれた十四松くんにボイスレコーダー全面待機で待ち構える。
「…いい子で待っててね、凛。」
ぐはぁぁぁぁぁぁ!!最高だよ十四松くん!!完璧いーちゃんだったよ!
「いい子で待ってろ、凛」
え、え、エルヴィンーーーーッ!!
「いい子で待ってろ、凛」
へ、へ、兵長ーーーッ!!
ボイスレコーダーを掲げながら悶える私を、トッティがさらに冷めた目で見下ろす。
「……だから何見せられてんの、これ」
ひたすら悶えてみたけど、十四松くんが声真似したいーちゃんの声をリピート再生するごとに、逆に寂しさが増えていって切なくなった。
あー、余計本物のいーちゃんの声聞きたくなっちゃったなぁ。