モブ生活始めました。

□猫カフェのイチくん
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小宮ちゃんに教えてもらった猫カフェに最近はまった私は、毎週末ごとにそこへ通っていた。

先に言っておくが、決して浮気とかではない。

人型の猫はいーちゃんだけだ。だから猫カフェに通って他の猫を可愛がっているのは決して浮気ではない。


しかし私は今、猫カフェの受付で非常に戸惑っている。

何故なら受付から見えるガラス越しの猫部屋に、私が可愛がっている人型猫にそっくりな猫ちゃんが、他の猫と混じって気持ちよさそうにお昼寝をしているからだ。

……しかも猫耳、尻尾まで携えて。


『あの、すみません、あの猫ちゃんはいつから?』


そう言っていーちゃんらしき猫ちゃんを指さすと、店長は困ったように口を開いた。

「あぁ、いえ彼は研修で、今日かぎりの…『え!?勿論新しく迎えた子ですよね?そうですよね?』…いやだって彼はにんげ…『私、なんならあの子指名します、あの子がお店でるたび来ます、あの子の為ならブラック時代に貯めに貯めた貯金全部使います、店長、あの子新しい子ですよね?』…えぇ、勿論!」


っしゃーーーーっ!!

これで思う存分いーちゃん撫で放題だぜ!若干言いくるめた気もしないでもないが、とにかくこれは一歩前進だ。

だって彼は今、"猫カフェ"の猫。いつもみたいに警戒されないはず!

制限時間の書かれたカードを店長から受けとり、こう言われる。


"あの新しい子は、イチくんです"と。















■一松side■



先週の日曜、凛が最近できた猫カフェから出てくるのをたまたま目撃した。

そこは捨て猫を保護してカフェでデビューさせ、気に入れば譲渡してもらえる形の新しいタイプの猫カフェ。



……なに、他の猫飼うつもり?



凛が出てきた猫カフェをちらりと見れば、窓にアルバイト募集の貼り紙が貼ってあった。


……別に、今月ピンチだし、猫カフェなら僕にもできそうだし。

そう思って面接を受けた。

店長はまさか、猫として働くとは思っていなかったみたいだけど。



でもその店長より、僕の方が今驚いていると思う。

よりにもよって、初日から凛に見つかるなんて……。



『いーちゃ…!じゃなかった、イチくん!こっちおいで〜』


い、イチくんって何!?え、もしかして僕のこと!?面接受かったの!?猫で!?

ガラス越しに受付にいる店長に助けを求める。が、店長はホワイトボードに"お客さまに粗相のないように"と書いて見せ、親指をグッとあげて一言、"グッジョブ!"。

いやグッジョブ!じゃねぇぇぇぇよ!まだ心の準備できてねぇぇぇぇし!店長お願い助けてください!!


だが店長は嬉しそうに受付に戻ってしまう。

クソ店長ぉぉぉぉぉ!!


『イチくん、その耳どおしたの?可愛いね〜♡写真撮っていい?いいよね、イチくん指名してお金払ったし〜』


指名ってなんだよ!んな制度ここにないだろ!そもそもお前他の猫目当てで来たんじゃないの!?でもそんな猫に嫉妬してバイトしたとかバレたら生きていけなーーーい!もはや猫カフェの猫になりきるしかなーーーい!


スマホのカメラを向ける凛に背を向けてとりあえず抵抗を見せる。顔は壁に押し付けるかんじで。

これで顔を撮られる心配はなくなったが、凛はそのくらい見透していた。

今度はいつもみたいに許可をとることもなく僕の頭を撫で始めた。


『"イチくん"ここ、撫でられるの好きでしょ?』


そう言ってこめかみあたりから軽く指で圧すように頭を撫でていく。

たしかに気持ちいい。……あれ、でもなんで……



そこで忘れていた記憶がぶわっと溢れ出す。




"…凛、俺のこと、拾ってくれるんでしょ?"

"……ねぇ。たまにここに来ていい?"

"……じゃぁ、鍵、ちょーだい。"




ゴンッ!と思わず頭を壁に打ち付ける。



馬鹿じゃないの、馬鹿じゃないの、馬っ鹿じゃねーーーの!?

死ねぇぇぇぇ!!あんときの俺死ねぇぇぇぇ!!


いっそ忘れたままの方がよかった。

心配そうに"イチくん"と呼ぶ凛に、そのまま撫でられるのはもう限界で。

怒ったふりしてシャーーーッ!!と威嚇してみせ、赤くなった顔を必死に隠すので精一杯だった。
















(松野くん!採用ね!週何回くらい入れる?)

(……週1で。)



それ以上は無理。

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