モブ生活始めました。
□そうだ、銭湯に行こう!
1ページ/2ページ
土曜の夕方、私は録り溜めしていた平日のワイドショーを見ている。
え?ワイドショー録画っておばちゃんかよ?って思った?すいませんねぇ、おばちゃん臭い趣味持ってて。面白いんだよ?ワイドショー。
今見てるのは、巷に溢れるキラキラネームについて。
「それにしても変わった名前が多いですね」
「親御さんはもう少し慎重な判断が必要かと…」
ほう、今はこんな名前があるのかぁ〜。
個人的に皇帝でカイザーとか気にいったんだけど。カイザーかぁ〜、あぁ銀魂見たい。ドSな総悟が見たい。なんでこの世界はことごとく私の好きな漫画を抹殺するのだろう……。
ではまた来週、とワイドショーが終わったところで時計を見る。もうすぐ6時か。
夕飯軽く作って食べて、あ、そうだ!こないだ発見した銭湯にでも行ってみようかな!
銭湯初めてだし!うん、そうと決まればさっさと夕飯作っちゃおう!
楽しみだな〜、初銭湯〜。
ってなわけで銭湯にやってきました〜!
やば、広い!めっちゃわくわくするー!
さっさと体洗って暖まるぞー!
"それでは〜……ってみましょう!第一門!"
ん?なんか男の声した?あ、隣りの男湯かぁ〜。なるほど。うっすら聞こえるもんなんだね。
"なんで〜……きゃいけないの!?"
んん!?ま、待て。今のツッコミ、も、もしや………。
"やだよ!〜……悪いよ!"
へ、兵長きたァァァァァ!!
ま、まじかよ、壁を隔てて兵長入浴中!?いやいや、落ち着け。入浴中なのはただのモブ6だ!!
私は急いで体を洗い、男湯に程近い湯船につかる。
"この〜……、から…の……はどれ?"
ん?これは赤パーカーの声か?あれ、やっぱ奴等は一緒に行動してる?もしやいーちゃんもいるのか!?
"なんか〜…………てない!?この〜…………な……に協力者がいるんだけど!?"
へ、兵長!!またツッコミしてるっぽい!いやしかし兵長はそんなテンションじゃないんだ、この前赤パーカーを殴った時みたいなあの蔑む声を聞かせてほしいのだよ!
その後もずっと湯船で散々聞き耳をたて、静かになった所で私も浴室を出た。
………やっべ、逆上せたかも。コーヒー牛乳飲みたーい!キンッキンに冷えたコーヒー牛乳が飲みたーい!
髪を乾かして、更衣室を出る。
確か入口の冷蔵庫横に椅子があったはず。そこで少し休もう。
そう思って足を運ぶが、すでにそこには先客が。
『ーーーあ!』
ぐったりと椅子に腰掛けているのは、最近全然(間接的にしか)遭遇することが出来なかったいーちゃん。これはチャーンス!
私はコーヒー牛乳を2本購入し、2メートル程離れたあたりにしゃがみこみ、ビンを鳴らす。
カキン、とビンとビンがぶつかる音で、椅子でグロッキーになっていたいーちゃんの目がうっすら開く。そして私と目が合うと一気に見開いた。
『…ふふ、これがほしいんだろ〜?このキンッキンに冷えたコーヒー牛乳、飲みたいんだろ〜?』
「………なに、あんたストーカー?」
おや、今日はすぐに話してくれんのかい。
『てかストーカーって。…ん?いや待てよ。確かにあれからほぼ毎日あの猫の溜まり場行ってるけど。たしかにいーちゃんなつかせようと必死になってるけど!あれ、これ世間一般的なストーカーじゃね?』
「あんた頭大丈夫?」
わー、いーちゃんに心配されたーって違うわ!私は怒ってるんだった!
『てかいーちゃん!こないだの馬の骨モブ6はどこのどいつ!?あんな可愛いいーちゃんの寝顔を無償サービスして、しかもおんぶさせるなんていーちゃんとんでもないビッチ猫だよ!』
「はぁ!?なんの話してるわけ。っていーちゃんて何。」
『いーちゃんはいーちゃん!猫背のお兄ちゃん略していーちゃん!しらばっくれても私見たんだからね!この間スーツきたいーちゃんとおんなじ顔の男におんぶされてるの!私はまだ触らせてももらえないのに!』
明らかに不審者を見る目で私を見るいーちゃん。
やめて、そんな目で見ないで〜!なでなでさせて〜!
私はそっと近づきいーちゃんにコーヒー牛乳を一本渡す。
椅子の上で小さく体育座りをして警戒しているいーちゃん。なかなか受け取ってくれない。
『あなたがおんぶさせたモブ6は、赤パーカーのモブ6ですか、グラサンのモブ6ですか、神声モブ6ですか、バタフライモブ6ですか、それともスタバァモブ6ですか?』
さらにはあ?と言う顔をしたいーちゃん。
なにやら考えている模様。
「……グラサンクソモブ6。」
いーちゃんから出た答えに私の中で奴が標的とロックオンされた。
『あのグラサンモブ6か!許さん!』
私が怒りで我を忘れているうちに、いつの間にか私からコーヒー牛乳を奪ったいーちゃんが、ゴクゴクと喉を鳴らしていた。………私も飲もうっと。
いーちゃんの椅子の隣りに体育座りをして、私もコーヒー牛乳を口にする。
『んまー!銭湯のコーヒー牛乳うまー!いーちゃん、飲んでまっか?』
「…当たり前でっせ、あんさん。風呂上がりのコーヒー牛乳は格別でっせ」
『ほんまや〜、わしゃ損してましたわ〜』
まさかそんなノリをしてくれるとは思わなかった私は、へへ、といーちゃんを見上げて笑った。
相変わらず目が合うとそっぽを向かれてしまうけれども。
「…ごちそうさま。」
そう言って立ち上がったいーちゃんに、私が思わず破顔してしまうのは仕方ないことだと思う。