モブ生活始めました。
□路地裏の出会い
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神声モブ6の背中を見送った私は、スーパーで買い物を済ませてマンションに向かっていた。
するとマンションに程近いビルの隙間道を入って行く、本日3人目となるモブ6を発見。
いつもなら素通りをかますところだが、何せ先程モブ6の一人が神声を持っていることに気づいてしまった私は、どうしても(緑と赤を除く)他4人のモブ6の声が気になってしかたなかった。
別に声優にくわしいわけじゃないし、声を聞いたところで大好きな兵長以外気づくか正直自分でもわからない。
けれど、この世界から私の大好きな進撃が消えてしまったのだ。
そう私は今、ものすごく進撃を欲している。それがどんな形であれ。
アルミンの声が聞きたいな〜!あの可愛い声に癒されたい〜!
そんな軽い気持ちで猫背のモブ6を追いかけてしまった私は今、行き止まりの路地裏で彼と対峙しております。まる。
………っていやいやいや、めっちゃ睨んでるゥゥゥ!しかも行き止まりィィィ!引き返す?てかめっちゃ目合ってるのに?明らかにつけてきたのバレバレじゃない?いやここは道間違えましたで逃げるしかなくね?
あれぇ?道間違えちゃった〜、で走り去ろうとした時、私の手に下がるビニール袋がガサリ、と音をたてた。
そして次の瞬間、コツリ、と足にすり寄りミャア、となく黒猫の姿が。
『か、かわいい〜!』
早く撫でたくて、ドサッ、と思わず荷物を乱暴に置いてしまえば黒猫はサッとモブ6の後ろに逃げてしまった。
『あ、あぁ〜、ごめんね、びっくりさせて。大丈夫だからおいで〜』
黒猫はモブ6の後ろからそっと覗いている。
く、どうしても触りたい。かくなる上は!
私は先程買ったスーパーのビニール袋を漁り、にぼしを取り出す。
『ほらほら、これ、なんだと思う〜?ほら、これがほしいんだろ〜?そうそう、いい子だ、こっちおいで〜?』
ゆっくり、一歩一歩近付く黒猫。
にぼしをこれでもかとチラつかせ、やっと黒猫を呼び戻すことに成功。
はぐはぐとにぼしを頬張る姿がかわいい。
『お主可愛いの〜。ほら、ゆっくりお食べ〜』
早く食べ終えて撫で撫でさせて〜、と黒猫を見つめていた時、カシュッという音がしたかと思うと、今まで夢中ににぼしを食べていた黒猫がまた奥へと走り出してしまった。
な、なぜ!?
黒猫を目で追えば、そこにはモブ6が出した猫缶にかぶり付く猫たちの姿が。
え、えぇぇぇぇ!?猫増えてるし!てか何そのドヤ顔!?むかつく、むかつくぞあのモブ6!!
俺に勝てるとでも?的な、なんだあのむかつく顔は!
いやいや、きっと奴はいつもこうやってエサを与えているに違いない。
ならば奴に猫がなつくのは道理。
よし、それなら猫をなつかせるよりも、主人を先になつかせた方がいいと見た!
『ほ〜らほ〜ら、おいしいにぼしだよ〜?おや、お気に召さない?ほぉ…、ワガママなお兄さんだねぇ?…ならこれはどうだ?んん?お姉さんの夜のおつまみ、チーかまだよぉ?ん?ほら、ほしいだろ〜?』
最初は何してんだ、この女。的な目で見られたけれども、チーかまを出した時一瞬だが心が揺らいだ様子。……お、これはいけるかも。
『いいのかい?食べたいだろ?ふふ、よし、特別サービスだ!……このキンキンに冷えたビールもつけよう!…ほら、欲しいだろ〜?んん?』
ゴクリ、とモブ6が唾を飲んだのを確認。
私はゆっくり近づいて、モブ6にビールとチーかまを差し出す。
するとモブ6は盛大に舌打ちをしてそれらを奪い取った。
「………あんた、なんなの。」
やっと聞けた声は、全然アルミンじゃなかった。むしろ兵長寄り。嫌いじゃないけどアルミンを期待していた分、正直がっがりだよ!
そんな私の心中などおかまいなしにビールを開けるモブ6。
カシュッ、とビールを開けた音に、猫たちが缶詰めを開けたと勘違いしてまたモブ6に近寄る。
「うわ、ごめん、違うって。エサはもうない。」
私とは正反対の猫への対応。
うお、マジか。そこまで違うと流石にへこむぞ。
『猫に好かれてるねー、お兄さん』
羨ましいぞコノヤロー。
「…べつに。エサやってるからじゃない。」
また不機嫌な顔になりそっぽを向かれる。だからへこむって。
『お兄さんになついてるから、先にお兄さんなつかせた方が猫と仲良くなれるかなって。第一段階クリア?』
はあ?と怪訝な顔をされる。
おや、これはどうやらまだまだ時間がかかりそうだ。
まあ、野良猫をなつかせるのは得意だ。持久戦も望むところ。
『ふふ、気分いーからもう一個おまけ。またね、猫背のお兄さん』
チーかまをもう一本無理矢理お兄さんの左手に握らせる。
今だ不審者を見るような目で私を見上げるモブ6を無視して、私はルンルン気分でマンションに向かった。
大好きな兵長の声を聞けたし、大好きな猫の溜まり場を知ることができたし、今日はほんといい一日だった!
それにあの猫背のお兄さん、猫にそっくりだし、なつかせてみたいなー。
そんなことを思った有休日。