死龍の軌跡
□二十七章
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不慣れな海上戦に苦戦はしたものの目立った死傷者は出なかったので大事には至らなかった。
そして死体の処理や甲板についた血を掃除していた時、ニニアンがふらっと甲板に上がってきた。
リン「あ! ニニアン!まだ出てきちゃダメ。そこらじゅう血まみれなんだから!」
ニニアン「・・・血?」
フラフラしていると血だまりに足を滑らしてしまった。
エリウッド「あぶない!」
ニニアン「・・・あ・・ごめんな・・・さい」
偶々近くにいたエリウッドが片手で受け止めた。
エリウッド「大丈夫かい?ニニアン。」
エリウッドは優しく声を掛けたがニニアンは暫く呆然とした後・・・
ニニアン「・・・ニニアン?それは・・・わたしの名前・・・ですか?」
暫しの沈黙
リン「ニニアン! あなた記憶が・・・!?」
ニニアン「・・・わたし・・・頭が・・・はっきりしなくてわたし・・・海に?」
リン「そうよ。小舟でこの近くを漂っていたの。」
リンがオドオドしたニニアンに優しく答えると彼女は落ち着きを取り戻した。
ファーガス「さっきのやつら、どうもその娘を狙ってたようだな。どうする、連れていくのか?とんだ疫病神かもしれんぞ。」
ヘクトル「疫病神ねぇ・・・。」
リン「彼女を置いて行くの!?」
ヘクトル「けどよぉ・・・俺達が行くのは【魔の島】だぜ?」
ヘクトルの言い分も尤もだがリンにはニニアンを連れて行かねばならない理由があった。
リン「・・・彼女を見て、思い出したことがあるの。以前、ニニアンに会った時・・・彼女とその弟は、黒衣の一団に追われていた。」
ヘクトル「おい・・・それって・・・。」
リン「ええ。【黒い牙】で間違いないわ。」
エリウッド「だとすれば何故彼女が【黒い牙】に狙われているんだ?」
リン「わからない・・・でも彼女を放置するのは危険すぎるわ。」
それにあまり想像したくないが彼女が牙の内部を知る人間かもしれない。護衛と監視を同時に行うとしたらこっちで保護した方がかえって安全である。
エリウッド「・・・そうだな。確かに、僕らがそばにいて守ってあげた方がいいだろう。」
リン「ありがとう。」
ヘクトルも隣で頷いていたのでエリウッドはニニアンに問いかけたが彼女は断る理由がないのと知り合い(?)の近くにいたいこともあってか一緒に行くことになった。
ヘクトル「・・・・ん?」
戦いの処理もほぼ終わり【魔の島】に向かっていた時、ヘクトルが何かに気付いた。
エリウッド「どうしたんだい?」
ヘクトル「・・・誰か見られてる感じがしてな。」
エリウッド「ここは海だよ。いくらなんでもさっきの海賊船みたいに・・・」
【がさっ・・】
先程の浸水で甲板に避難させた荷物から不自然な物音が響いた。
エリウッド「!!」
ヘクトル「(生き残りが隠れてたか・・?)」
二人は警戒しながら荷物に恐る恐る近づくと・・・
【チュウ・・?】
ネズミ・・いや、ハムスターみたいな小動物が飛び出した。
ヘクトル「んだよ。ひやひやさせやがって!!」
この時、この小動物の小さな牙に赤い液体が付いていることに気づいていれば・・・。しかし、二人は気にせずエリウッドは安堵しヘクトルは八つ当たり感覚で荷物をけっ飛ばした。だが・・・
【ドサッ】
何故か黒衣を纏った男が出てきた。
エリウッド「なっ!」
エリウッドは慌てて武器を構えたが男の反応がない。恐る恐る確かめると既に息絶えていた。
ヘクトル「何だこれ!?」
驚くことにヘクトルが死んだ男の黒衣と取ると首が何かに食い破られた跡があった。どう見ても人間の手によるものではない。
エリウッド「まさか・・・あのネズミが!?」
直ぐにネズミを探そうとしたがネズミは船首に二足で立っていた。するとネズミは人間が笑うように不気味にニヤリと笑った。
エリウッド、ヘクトル「「!?」」
あまりの動物離れした行動に二人は何もできなかったがネズミが転移魔法のように消えると二人は慌てて近づいたが案の定何もなかった。
ヘクトル「・・・何だったんだ?」
エリウッド「・・・ガリアス?」
何も結論も出せずに黙っていると
ファーガス「おいお前ら!!もうすぐ【魔の島】に着くぞ!!!」
ファーガスの言葉にハッとした二人は直ぐに上陸の準備を始めた。
二十七章 完