万事倶楽部

□序章
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気付いてしまった。
彼等が変わってしまったという事を。

彼等のバスケが、間違っているという事を。



ずっと気付かないままだったら、今までの様に彼等と一緒にいれたかもしれない。
でも、全てに気付いてしまった今、僕にはもう彼等の傍にいることは出来ません。


これ以上変わっていく彼等を見ているのは辛すぎる。



「待っていて下さい
僕が、僕がきっと」



貴方達にバスケの楽しさを、思い出させてみせますから。




キラキラと輝く銀色に出会ったのは、そんな決意をしたある日の事だった。





「ハーハッハッハッ!
銀時ぃ貴様の自転車の鍵は頂いたっ!」

「おいコラ待てヅラァ!
テッメェ俺の鍵返しやがれ!
おめぇの自転車が壊れた事なんざ銀さんには関係無いんですぅ!
俺がお前に自転車貸す理由何てこれっぽっちも無ぇんだよゴルァァァアアアアア!」

「アッハッハッハッ!
金時は相変わらずケチじゃのう
ちっと貸しちゃるだけじゃなかか」

「そうだよ銀
アタシ等の家直ぐ傍なんだから貸してやれよー
んでアタシの自転車銀が漕げば良いでしょ」

「俺金時じゃねぇし!
ヅラもそこまで家遠くねぇだろーが!
つーか梨乃に関しては後ろに乗らせてもらおうって魂胆丸見えだからね!?」

「ちっ、バレたか」

「ヅラじゃない桂だぁぁあああ
ふっ、これで再放送いけいけエリザベスの時間に間に合うぞ!
さらばだ銀時!」

「何舌打ちしちゃってんのぉ!?
つーかあいつ漕ぐの速っ!?
もう見えないんですけど!?
俺の自転車は!?」

「つーかお前ら全員うるせぇよ
他生徒の視線がうぜぇ」

「「黙れ身長低杉」」

「よーしてめぇら歯ぁ食いしばれぇぇええええ!」

「アーハッハッハ!
今日も変わらず平和ぜよ!」






「…何ですか、あれ」


僕が作り上げたシリアスな雰囲気を見事にぶち壊していった五人組は、随分とめちゃくちゃなのに眩しいくらい輝いていた。




「万事倶楽部…?」



彼等が現れた方向に目を向ければ、そこにあったのは元々使われていない倉庫だった部屋に無造作に掛けられた万事倶楽部の札。



そういえばクラスで聞いたことがある。
部活の助っ人から落とし物探し、お悩み相談までなんでもしてくれるという謎の倶楽部があるということを。




「彼等が、万事倶楽部の…?」





前々からおかしな名前のクラブだとは思っていたけれど、部員の方々までおかしな人が集まっているらしい。



さっき見えたのは、


あの灰崎君も苦手だと言う帝光中最恐の不良として有名な高杉君。
成績も良く学級代表を務めているけれど、電波だと有名な桂君。
クラスのムードメイカー的存在で教師からの評判も良い坂本君。

そして、


良く授業をサボる事も多いけれど、何故か周囲からの信頼が厚い、目立つ銀髪の持ち主坂田君。

その坂田君の傍に良くいる、彼の幼なじみだという教師からの評判も良い、男女共に人気のある香坂さん。




それだけの情報では、この五人が何故あれ程仲が良いのかも、何故あんなクラブを作ったのかもわからない。

謎の多い人達だ。




でも、何故でしょうか。


「彼等と、関わってみたい」


そう強く思わされる人達だ。





「…明日、行ってみましょうか
万事倶楽部に」




このふとした思い付きが、
僕達キセキに大きく関わる物になるなんて、この時の僕は少しも考えていなかった。

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