貴方ト私ノ此ノ関係

□気になるアイツは
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アイツと初め逢ったのは…確か、中2の春頃だったと思う。



何時も通りつまんねー授業をサボって屋上にいた時、鈍い音をたてながら扉が開いた。


まぁ昼休みはとっくに始まっているし、誰かが来てもおかしくない時間だが…気温が何時もより低く肌寒かった。


わざわざこんなさみぃー外に出て飯食うよりは、暖かい室内で食った方がマシだろう。
…変わり者を除いて、の話しだが。


昼飯持って来てねぇし、丁度いいから今来た奴から奪うか…と、上体を起こしタンクの後ろから出た。



此処から数メートル先、直ぐに見付けた。
相手はフェンスに背を預けて空を仰いでいた。何する事なく、只ぼーっと。

それについつられて俺も空を見上げたが、特別綺麗な青空とは言えない。
曇り空、そんな感じだ。


……なにやってんだ、俺。



ま、いい。こんな事は。
俺は空から前にいる奴に視線を戻し歩を進めた。
数メートルはあっという間になくなり、俺と奴の距離は数十センチ。


が、そいつは俺の方を見向きもしなかった。
勿論声はかけた。おい、って。相手の返事、無言。


何こいつ。この俺をシカトしやがって…。
蹴りの一つでもいれてやろうかと片脚に力を込めた時。


少し強い風が吹き、それに無意識に眼を瞑ると近くから声が聞こえた。




『……さむ、』




だろうな。寒いだろうな。気温低いし。お前ブレザー着てねぇし。

…水浸しだし。
馬鹿じゃねーの?コイツ。



もぞっと身動きした気配を感じ、俺は瞑った眼を開く。

丁度タイミングが良いのか、偶然なのか。
厚い雲の隙間から陽が射し、目の前の馬鹿を照らす。



ゆっくりと持ち上がる瞼。男にしては長い睫毛。風に揺れる黒い髪の隙間から覗く真っ黒な眼。

何度か瞬きを繰り返してから、
ソイツはやっと俺に視線をやった。



『…アンタ、誰?何時からいたの??つか、俺に何か用…?』



寝ぼけているのか、少し舌っ足らずな言葉を発しながら。
ソイツは俺の眼を見て言った。


いや、俺から眼を離さなかった。一度も。
只真っ直ぐに…俺だけを見つめていて…―。




『……ックシ』



間抜けなくしゃみに、俺はハッと我に返る。

…今、なに考えてた、俺。


何時の間にか一歩進んで。
何時の間にか上げていた右手。

無意識のうちにやったそれら。


マジで俺何しようとしてたんだ…。



『……風邪ひいたかな』



シャツの袖で鼻を抑えながら言った奴。

気の所為か少し震えている様に見える。



「…お前、何で濡れてんだよ」



上げかけた右手をポケットに突っ込み、一歩踏み出した脚を元の位置に戻す。

そんな俺を奴は一度俺に視線をやってから「別に…」と小さな声で発した。




『……、用がないなら俺行くから』




その場から立ち上がった奴は俺の横を通り過ぎて行く。


その細い腕を反射的に掴みそうになった。が、既のところで出しかけた手を止める。
おいおい、マジ俺どうした…。




遠くの方で鈍い音が聞こえて、俺は舌を打った。ほぼ無意識に。
その苛立ちは何にかは解らない。








それから暫くして屋上で逢った奴が「名前」という名前だと解った。

アイツだけを残して親が夜逃げしただとか。
それが切っ掛けで虐められてるだとか。
感情をあまり出さないから人形みたいだ、とか。


いろいろ耳にした。



またそれから暫くして、アイツがリョータに抱かれてる事を知った。

コレは聞いた話しじゃない。俺が実際に見た事だ。俺以外は知らない。

まぁ、あの様子じゃ赤司達も知っていた様だがな。


別にそん時は何も思わなかった。
リョータやアイツともクラスちげーし。バスケ辞めてアイツ等とも接点なくなったし。


俺にはカンケーねぇし。
アイツらがどうしようかなんて。
ま、名前君はごしゅーしょーさま。


そう思っていたのに、だ。

偶然ってホントこえーよな。
リョータを茶化しに来ただけなのにアイツに逢うなんて。


しかもヤリ終わった後。
リョータはもう何処かへ行っちまったし。
態々来たのに何もせずに帰るってのも嫌だし。



じゃぁ、どうする?ってなったらもう決まってる様なもんで。
矛先をリョータからアイツに変えた。


必死に隠してたらしいリョータとの関係。それを俺以外にも知ってる事を話して。


最初はアイツの驚く様が面白かったが、シャツから覗く痛々しい噛み痕や腕に残る縛られた痕。

それらを見た瞬間。何故か胸がズキリ、と痛みが走った。


アイツの泣きそうな顔に。リョータを見つめる視線に。
ズキズキと胸が痛んで。


気付いたらアイツにキスしていて。俺の服を掴む手に、少し嬉しく想ったりして。優しく…深い口付けをして。
鎖骨に跡を残して……。


男のコイツに胸が高鳴って。大事にしたい、とか。この俺が、そんな事想って…。

今まで数え切れない程女を抱いたのに。
こんなの初めてで…。これじゃまるで、俺がコイツのこと、“好き”みたいじゃねーか。


片手で数えられる程しか話してねぇのに。つか、コイツ俺の事覚えてるのかよ。嫌、それよりもコイツ、リョータが好きなんだろ?


……ああ…もういい。そんなの。
俺はこいつの事“好き”じゃねぇ。“気になる”だけだ。









気になるアイツは




昔も今も、傷だらけで…。
















(抱き寄せたそのカラダから、壊れる音が聴こえた。)




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