連載第一回





日が沈んだ、僕は逃げてきた。
何からかは分からない。
騒音か、熱気か、
狂ったような雑踏からか。
一体、僕はここで何をしているのだろう。
美しいものだけを、求めていた。

ここは涼しくて、静かで。
下の人間達の生活を考えると、
まるで面白くない番組の 面白くない話で騒ぐ奴らを、
面白くない自分が無意味に眺めているような、
そんな気分になった。
馬鹿だな、と思いながら、ちょっと寂しいあの感じ。

何をしに来たのかも分からず、ただ立ち尽くす僕。
からかうように、冷たい風が吹いた。


ひとりぼっちの僕は、本能に身を任せ、横たわった
理由もなく
この冷えた固い鉄の上、
目を閉じた。
耳を澄ます。


鼓動が聞こえた。
そんな馬鹿な。何も聞こえない。
再び耳を澄ます…聞きたいんだもういちど。
ほら、きこえる。
音もなく、動きもなく、
脈うってるよ……

――君も、生きているのかい?
そう尋ねたら、
――君も、生きているのかい?
そう返事が返ってきた。


そっと目をひらき、ゆっくりと起きあがる。
うんとのびをする。
深く息を吸いこんで、はきだす。
……まだ、息づかいが感じられる。

思いだして、僕はフェンスに歩み寄り、そのむこうを見渡した。
そこは僕の逃げてきた場所。
そこは、なんともあざやかで、美しく……


日がのぼる。










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