連載第10回



どこまでも続くかと思われる青い空。
空は高く、空気は澄んでいる。

僕らは佇んでいる。

そよ風が一面の緑を撫ぜていき、
僕の頬をくすぐる。
鼻腔に香るのは、どこからにおうのだろう、
芳しい柑橘のかおり。

僕の全からだが地球に愛されている。
五感でそれを知る。
やわらかい青草を踏みしめる 硬い革靴の底から
僕は大地の愛を吸い上げる。

ああ



――大地の向こうから迫る低音、
それは地鳴りのよう、僕らを共鳴させ、

足踏み、
むせるような青のにおいが沸きたち、

誰かが叫んだ、応えて叫ぶ、


   パーンッ


……その音を先に知った

僕のからだはあまりにも無垢

熱く重たい鉛の弾が

軍服を 皮膚を 肉を 肋骨を 内臓を

焼き焦がしながら突き進む

僕のやわらかな心の臓はそれを呑み込む

僕は 僕は 或る種のオーガズムを感じる

こうして僕は処女を失ったのだ

左の胸に空いた穴から 熱い血潮を艶やかに吹き上げて



大地にかえる。

いまだ乙女の僕のてっぽう、僕の手を離れ、
やがていつか 誰かの肉体を知るのだろう。

ああ




大地の愛に満ち満ちた おだやかな日



[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ