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□私が初恋をつらぬいた話
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東京屈指の有名私立学園の初等部に通う当時私は6年生。
チビでその上男勝りな性格。典型的な虐められっ子だった。

それでも負けず嫌いな性格のお陰か不登校にはならず、
だからといって何の楽しみもない憂鬱な学校生活を送っていた。

そんな中、年度の教員入れ替えで新しい音楽科教師として赴任してきたのが、鳳先生。

スラリと背が高く、その上若い鳳先生が人気者になるのは、あっという間だった。
とても親切で優しい先生だったから、とくに女子達からの人気は高く、モテモテ。

私はと言うと、誰に対してもニコニコ淡々と敬語で話す先生に少し興味を覚えつつも、
取り巻きの女子たちに牽制されてまるで接点が持てない状態だった。

鳳先生が赴任してきて早数ヶ月の夏休み明け。

秋の校内合唱コンクールに向けて、音楽は歌唱の授業が多くなっていた。

根暗な私には毎年苦痛の行事なのだが、この年の授業内容はさらにその苦痛を上回る内容だった。

まず一人ひとりの歌唱力をみて、ソプラノやアルト等の振り分けを行うことになったのだが、
問題はその仕分け方。

ピアノの伴奏に合わせて、クラスの皆が見守る中、
一人ずつピアノの脇に立ってサビのワンコーラスを歌うという地獄の様なものだった。
その上声が小さければもう一度歌い直すというオマケ付き。

虐められている自分が恰好の笑いものにされるのは、目に見えていた。
めげずに学校に通い続けていた私でも、この時ばかりは休めばよかったと本気で後悔した。

緊張で冷や汗ダラダラ、後悔の言葉を心の中でグチャグチャしゃべってる内に、
嫌でも自分の番はすぐに回ってきた。

名前を呼ばれてピアノの脇に立つと、もうその瞬間からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
途端に息が苦しくなった。

(きっとコイツらは私が歌い直しになるのを想像してるんだろうな…、キモイ歌声で自分たちを笑わせてくれることを期待してるんだろうな…)
そう思ったら無性に悔しくなって、怒りをバネになのか、羞恥心は軽く吹き飛んだ。
たぶん、あまりの緊張に、キレた状態だったんだと思う。
絶対に歌い直しなんてするもんか!と、声は大きく、歌詞はハキハキと全力で歌い上げた。

コイツ何本気で歌っちゃってんの?というクラス中の大爆笑の中、一人だけ驚いた顔で拍手してくれる人がいた。
鳳先生だ。

「凄い上手でびっくりしました!素晴らしかった!」

先生がそう言うと爆笑はピタっと止み、
クラスの女子たちはあっけにとられた感じでえ?え?と、私と先生の顔を交互に見比べていた。

一方の私は、やっぱり爆笑されたという気持ちで顔から火が出るほど恥ずかしくて、
しばらく下を向いていた。

丁度その時チャイムが鳴り、音楽の授業終了。
混乱でどうしていいのかわからないまま、急いで音楽室から出ようとすると、
私は鳳先生に呼び止められた。
「本当に上手でした。恥ずかしがらないで、自信をもって。」

その時の事は、今でもハッキリと頭に残っている。
褒められて凄く嬉しかったのと、初めて間近でみる鳳先生の顔と、
なんだかよく解らない感情で、しばらくの間心臓のドキドキは収まらなかった。

合唱コンクールも無事?に終わり、月日が流れるのも早いもので、季節はもう卒業シーズン。

音楽室でのソロデビュー以来、私は鳳先生と話す機会が少しだけ増えていた。
本当に一言・二言交わすだけの会話だったが、
私を見かけると話しかけてくれる先生がとても嬉しかった。

まぁそのお陰で、女子達の風当たりが更に強くなっていたのは言うまでも無いが…。


卒業式の予行練習が本格的に始まると、私の心はずーっとザワザワしていた。
この学校を卒業したら、鳳先生ともお話できなくなるなとか 、中学校に入っても同学年のメンバーは殆ど変わらないし、また学校生活がつまらなくなるなとか。

ただただ毎日そんな思いが頭中を駆け巡って、常に上の空。パンクしそうだった。
でもその思いの発散の仕方も、なぜ自分の心がそんなグチャグチャになっているのかも解らず、
私の小学校生活はあっという間に終わっていった。
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